扇遊の「小言幸兵衛」2013/01/28 06:41

 世の中には、いろんな人間がいる。 始終ニコニコしている今日のお客様の ような人もいれば、いつもとんがっている人がいる。 学校や会社へ苦情を言 ってくる。 あれは年末になると多くなる。 クレーマーというくらいで。 寄 席にもいる。 何だ、あの落語は、と言ってくる。 無駄な労力です、ちゃん と応える噺家は、一人もいない。 私も今年還暦で、六十のお爺さん、山手線 に乗っていて、車内放送が気になる。 「新宿駅の構内で、お客様が線路内に お入りになりましたので…」、敬語使うな!

 小言を胃の薬にしている大家。 魚金、ハラワタをその辺にうっちゃるんじ ゃない。 車屋、そんな所に止めて一服するな、そこは子供が遊ぶ所だ、もっ と広い所へ行け。 お崎さん、飯の焦げてる臭いがしているぞ、お前は洗濯と 飯炊き、二つのことを一遍に出来る女か。 犬がつるむんじゃない、こんな所 で…、人のいない所でやれ。 と、長屋を一回りして、ずっと座り込んでいる 「石臼婆ア」に、裏の戸がバタバタ言ってる、膳の上を片付けろ、畳の目なり に拭け、猫を蹴飛ばすな、この「猫婆ア」と言っていると…。

 マッピラメンネー、空き家のチンタナいくらでい、と入って来た男。 誰が お前に貸すと言った、物には順序というものがある。 商売は何だ? 豆腐屋。  いいな、家族は? カカアが一人。 何人持つつもりだ。 子供は? いい塩 梅に一匹もひりださねえ。 一緒になって何年だ? 八年ぐれえ。 三年添っ て子なきは去るべし、という。 別れちゃえ、四季に孕むような、尻のでかい 女を世話してやる。 何だ、この逆ボタル、借りるもんか。 泣きながら逃げ てった、ロクなもんじゃないな。

 お家主様の田中幸兵衛様のお宅はこちらでございましょうか、向かいに結構 なお借家がございますが、拝借ができましょうや、この段を伺いたい。 学問 がおありなさるね、この段を伺いたいなんぞは、九段なら靖国神社。 ご商売 は? 仕立職を営んでおります。 仕立屋だから営む、飴屋ならベトナム、お 茶を淹れて。 家族は、手前に妻に倅、以上三名。 いいね、羊羹切っておい で。 倅は二十歳、仕立屋を手伝っていて、腕がいいから良い品物は倅へ。 男 っぷりは? トンビが鷹を生んだと、近所で評判。 そりゃあ、よかった。 独 り身で、嫁さんの見当、全くなし。 これはいけないね、お茶出さなくていい。  心中が持ち上がる。 筋向いに古着屋、一人娘のお花、十九、器量良しだ。 月 夜の晩にくっつくな。 お針の稽古で分からない所を聞きに来る。 奥へ上げ るな。 お針の稽古が、ほかの稽古もするようになる。 ポコラン、ポコラン、 ポンポコランとなるな。 便秘症ですか。 お前がぼんやりしているからだ。  倅をあっちへやってしまえ。 一人息子だから、やれない。 お花さんを手前 どもに。 一人娘だ、ほーら、話がまとまらない、どうする。 あの世、蓮の 台で心中ということになる。

 洲崎の土手、幕が開く、お花のあとから、お前んとこの倅だ、真っ白に塗っ て、鮫鞘の刀はあるか、なに陸軍省払下げのサーベルが一本、ガチャガチャう るさい。 「そこにいるのは、お花じゃないか」「そういうお前は」、倅の名前 を聞いてなかった、何ていうんだ、「瀬古多礼与太八郎」。 もっと乙な名前は なかったのか、徳三郎とか半七とか。 コーーン、本釣(鐘)が鳴る。 南無 阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、「宗旨は?」「法華」、にぎやかに太鼓を叩いて「南無 妙法連華経」。 「古着屋は真言、オンガボギャー、右や左の旦那様」

 入れ替わりに「ヤイッ家主の幸兵衛ってのは、うぬか」という乱暴な三人目。  商売を聞くと「鉄砲鍛治だ」「道理でポンポン言い通しだ」