早起きの拾い物、三文俳句「朝の散歩」2013/01/01 07:24

 明けましておめでとうございます。 今年も吉例となった俳誌『夏潮』一月 号の親潮賞応募作を、初笑いのタネにご覧いただくことにする。 東京の町中 に住んでいて、朝の散歩は、自然とふれる数少ない機会の一つである。 過去 の句帳から、この時季、正月から、春の到来までの、朝の散歩で拾った句を並 べてみた。

淑気満ち東雲に月尖りたる

寒風をものともせずに冬薔薇

寒散歩犬も主も振り向いて

鵯の来て金柑に網かけてあり

節分の豆ぽつぽつと雪の上

湿り気を吸い込む雪の明日かな

寒月を目指し川鵜の並び行く

四日目は円空仏よ雪だるま

一番の寒さの先に春の光

ロゼッタはぐにやりと春を待ちにけり

頬骨に食い込むやうに冴返る

笹鳴の朝ぼらけから励みけり

春の朝町の底から明るくて

スイトピーローランサンのピンクかな

しだれ梅艶をまとひてひとり立つ

鶯や郵便局へ下りる道

落椿順に並べてありにけり

あたゝかや道には蟇の轢死体

あたゝかや薹の立つたる花きやべつ

生垣も比奈夫の赤に芽吹きをり

 結果は当然ながら、入賞はもちろん佳作にも入らず、その他応募作の尻の方 に〈頬骨に〉〈笹鳴の〉〈スイトピー〉が紹介されただけだった。

再録「人情噺 銀座ハゲ天」2013/01/02 07:37

暮の水上瀧太郎の話の関連で、2002(平成14)年10月25日の「等々力短 信」第920号に、「人情噺 銀座ハゲ天」というのを書いていたのを、再録す る。 水上瀧太郎の阿部章蔵が、ひとびとに好かれ、信頼された所以の一端が 垣間見られるからだ。 なお、渡辺亘さんが亡くなられたことを『福澤手帖』 153号(平成24年6月20日発行)で知った。 よく土曜セミナーでお見かけ していた。

等々力短信 第920号 2002(平成14)年10月25日 人情噺 銀座ハゲ天

 十月、前菜は「富山白海老のから揚げ」、メインは「吹き寄せ(栗、銀杏、し めじ、薩摩芋、百合根、三色ピーマン、茶そば)柚子胡椒塩」「きのこ五種五味 (松茸、舞茸、榎茸、椎茸、えりんぎ)」「蓮餅の茶巾二種」「翡翠きす」「芝海 老と乾し葡萄の菊香かき揚げ」と定番「はぜ」。 天ぷらの銀座ハゲ天から毎月 来るDMはがきの広告面にある今月の献立である。 店名にちょっと抵抗がな きにしもあらずなので、常連客ではない。 社長の渡辺亘さんが大先輩で、学 校の行事をお手伝いした時、私の本を差し上げてから、「はがき通信」のつなが りで、毎月送って頂くようになった。

 記事面には、毎年テーマをしぼって、天ぷらについての、いろいろな情報が 書かれている。 昨年は「新しい天プラ」、今年は「ハゲ天の七十五年」。 昭 和3年、渡辺亘さんの父上による創業の経緯は、興味深いものだった。 水上 滝太郎(阿部章蔵)さんの『貝殻追放 抄』(岩波文庫)「我が飲屋」の、麹町富 士見町の天ぷら屋「たから」である。 「主人は昔私の同僚(明治生命)だっ た。ませた口をきくかわりにそろばんも達者という若者だったが、上野の宿屋 に養子に行き、間もなく地震(関東大震災)で叩きつけられた。家業がなくな れば養子はいらない。離縁という事になったが、本人同志は別れないという。 いろいろ揉めたあげく、連て逃げてもいいでしょうかと相談に来たから、よか ろうと答えた。廻り廻って天ぷらやになった。素人のくせに器用で、家は狭い が魚がよく、粉がよく、油がよくてしかも安い。泉鏡花先生が来る。岡田三郎 助先生が来る。久保田万太郎さんが来る。喜多村緑郎、花柳章太郎という顔も 見える。主人もすっかり天ぷらやさんになり切って、若禿の頭を光らせ、一生 懸命だ。この方が会社勤めよりも働き甲斐がありそうだ。皆さん一度ためして 下さい。/この原稿を清書して都新聞に届けたら、ゆっくり飲み廻ろう。我飲 屋に幸あれ。(昭和5年元日掲載)」

 開店の昭和3(1928)年は昭和大恐慌の年、今と同じ不景気で、出前の天丼 が日に三杯しか売れないこともあり、早くもその年の暮には資金繰りに困る。  水上滝太郎さんに150円を借りて、年を越した。 天丼の値段が30~50 銭の頃、日に2円も売れない店が閑な夏場をしのげるはずもなく、翌年秋、夜 逃げの相談に行くと、場所が悪いのだから「銀座へ逃げろ」と、大卒初任給が 50円の時代に、また何と2千円を無利息無担保で貸してくれた。 おかげで 昭和5年9月、銀座の現在地に出る。

市也改メ柳亭市弥の「元犬」2013/01/03 07:03

 年賀状で、落語研究会の覚書に言及して下さった方が何人かいた。 気をよ くして、12月25日に開催された第534回の落語研究会である。 クリスマス というのに、さん喬、小三治人気か札止め、もっとも定連世代は今やクリスマ スとは無関係かもしれないが…。

 「元犬」     市也改メ 柳亭 市弥

 「鮑熨斗」         蜃気楼 龍玉

 「火事息子」        柳家 さん喬

          仲入

 「尻餅」          春風亭 一朝

 「お茶汲み」        柳家 小三治

 市弥は11月1日に二ッ目に昇進した、と拍手をもらう。 垂れ目、おかっ ぱ頭、市馬の弟子で、初め三橋美智也の「也」を付けられたが、「哀愁列車」は 知らなかったという。 職務質問を受けた、浅草演芸ホールの真ん前の交番で。  そこの演芸ホールから出て来たというと、従業員か? と聞く。 噺家だという と、蕎麦を食べてみろ、と言う。 やって見せたら、「おめえ、前座だな」と言 われた。 その警官を見返すように、がんばっていきたい。(拍手)

 犬は色で区別するが、白は数が少なくて、人間に近いとかいう。 犬の白が 三七、二十一日、蔵前の八幡様に裸足参りをして、人間になった。 裸なのに 気づいて、奉納手拭を腰に巻く。 顔を知っていた口入屋の上総屋の旦那が、 色が白くて、いい男だ、請け人はなさそうだが、正直そうだからと、羽織を貸 してくれ、店へ連れて行ってくれる。 上がるのに足を洗えと言われ、雑巾を 口にくわえて振り回す。 廊下を拭けと言われて、四つんばいでツーーッと拭 いて、うまいな、と褒められる。 雑巾しぼった水飲むな。 お腹が空きまし た。 沢庵は嫌い、梅干は駄目というので、旦那の干物で、お鉢のご飯をそっ くり、二升食う。 フンドシ締めたことがない、帯を渡すと口にくわえて振り 回す、変わってるね。 変わった奉公人が欲しいという隠居のところへ。 お 元という女中がいる。 生まれは? 八百屋と乾物屋の間、あそこは私の家作 だが、奥の掃き溜めで、謙遜して偉いな。 お父っつあんはわからない、みん なは酒屋のぶちという、おっ母さんは毛並みのいい奴についていってしまった。  三匹いっしょに生れ、一番最初に生れたから末っ子といわれている。 三つ子 だろう。 一番上の兄は大八車に轢かれて死んだ。 二番目の兄は、近所の悪 ガキに川へ放り込まれた。 天涯孤独。 名前は? 白、白吉や白太郎でなく、 ただの白、忠四郎か、いい名だな。  茶を入れろ、鉄瓶がちんちんいってい るだろで、ちんちんし、焙炉(ほいろ)を取ってくれで、ワンワン吠える。 し ょうがないな、と女中を呼ぶ。 元はいぬか? えー、今朝ほど人間になりま した。

 浅草の警官を見返すためには、まだかなりの修業が必要かもしれぬ。

蜃気楼龍玉の「鮑熨斗」2013/01/04 07:09

 龍玉は五街道雲助の弟子、弥助から蜃気楼龍玉になった2011年2月、「臆病 源兵衛」を聴いて、なかなか手堅く、面白く聴かせたと褒めたことがあった。  今回は、前座噺といってもよい「鮑熨斗」、女房のお光が賢く、亭主の甚兵衛が 頼りない落語の定番だ。 おナカが空いてフラッとした甚兵衛、おまんまにし てくれというが、米もお足も切れている。 女房のお光がと言えば、貸してく れるからという山田さんに、普段からの信用だと50銭借り、魚屋に尾頭付を 買いに行く。 テエは5円、とても50銭には負けられない、鮑を篭に入れれ ばお遣い物になるからと、一杯20銭を三つ50銭に負けてもらって買ってくる。  女房は大家のところの婚礼の祝いの口上を、甚兵衛に教える。 お返しに1円 はくれるから、50銭を山田さんに返し、50銭で米を買う計略だ。 覚えられ ないというのを、「口移し」でというと、昼間っからか、雨戸を閉めないと、と 甚兵衛。 以前は「津波」が多く、小遊三が「名古屋から津波がまいります」 とやったのを聴いたことのある、これは長屋から「つなぎ」のほかというとこ ろを、龍玉は「うなぎ」でやった。 で、大家のところで、「うなぎ」か「どじ ょう」か迷う。

 大家も、鮑を持って来たのは、お光さんも承知なのかと聞くので、内輪の話 をみんなやると、「磯の鮑の片思い」で、縁起が悪いから持って帰れと、鮑を放 り出す。 鮑が四つになったと思ったら、一つは猫のお椀だった。 帰る途中、 腹が減って鼻の頂きがタラコに見えるトウリュー(棟梁)と会い、祝いものに ついている熨斗の根本は、紀州の鳥羽浦で海女の採った鮑だ、大家に熨斗はは がして返すのか、訊いてみろ、屁でもひっかけてやれ、そこでケツをまくれば、 5円は出す、と教わる。 ケツはまくれねえ、ふんどしを締めてないから。 つ いでに仮名で「のし」の「し」を長く書くのは、鮑の剥きかけで、梨や柿を剥 いても、こう伸びるのと同じだと教わる。

 ヤイ、コノヤロー、熨斗のポンポンは、海女がどっかの浦で…、ケツは諸事 情があって、まくれません。 その話、大家も聞いたことがあり、問いに答え られたら5円出そう、「のし」の「し」を長く書くのは? 「鮑の剥きかけ」で 一本取る。 もう一つ、訊きたい、10円でも20円でも出す。 杖をついたよ うな「乃し」というのは何だ? あれは、鮑のおじいさんでございます。

さん喬の「火事息子」前半2013/01/05 06:28

 縦縞の着物のさん喬、お聞き流しを願いますと出て、暮になると救急車や消 防車が多いような気がする、と。 音がうるさくないのは、緊迫感がない、「ド ケッ!ドケッ!」という気持を、もっと表に出していいのではないか。 外国 は、もっとけたたましい。 江戸時代、300年前に大名がそのテリトリーを警 備する大名火消、旗本・御家人の定火消(じょうびけし)、遅れて町火消、町人 の自治消防、いろは四十八組が出来た。 火が広がらないための破壊消防、鳶 口で建物を壊す。 定火消は役屋敷にいて、自分のテリトリーだけを守る。 定 火消の人足を、臥せる煙と書いてガエン(臥煙)といい、暇だから、刺青(ほ りもの)姿で、ゆすり、たかりをする、ならず者が多く、評判が悪かった。

 火は収まったようだが、表を通る人が、質草の入った蔵に、目塗りをしてい ないと、悪口を言う。 左官の源治はどうした、来ていない、私達でやろうと、 伊勢屋の旦那と番頭、貞吉で始める。 高い所はダメという番頭が梯子を登り、 「火事ってえのは、きれいですねえ、旦那様」。 向きを変えなさい。 無理。  蔵の折れっ釘に片手でつかまって。 バカだねえ、左手でつかまって、右に向 き直ればいいんじゃないか。 土を放り上げるから、すくうように取れ、見送 るな、顔にベチャ。 と、はかどらない。

 遠くから、屋根の上を、臥煙が飛んで来た。 番頭、俺だよ。 若旦那。 下 に居るのは、親父か? 年取ったな。 この火事は、もうすぐ消える。 若旦 那が前掛けを、折れ釘に結わえてくれて、番頭が自由に手を使えるようになり、 手際よく手伝ってくれたので、目塗りも無事済んだ。

 埼玉屋さん、大宮屋さん、蕨屋さん、川口屋さん、赤羽屋さんが火事見舞に 来て、岡本屋さんは父が風邪でと、若旦那が。 跡を継いでいらっしゃる、お 孫さんがいる、ウチの倅と同い年、あいつはどこで、何をしているか。 番頭 はどうした。 まだ折れっ釘にぶら下がっています。 すぐ、下ろせ。

 前垂れをほどいて、折れ釘に結わえて下さった、あの方のお蔭で、暖簾に傷 がつかないで済みました。 無理を言って、待っていただいております、一言 お礼を申し上げて下さい。