作家がガンになって考えたこと ― 2020/10/20 07:05
作家の高橋三千綱さんが岩波書店『図書』の2月号、5月号、7月号、10月号と断続的に連載している、「帰ってきたガン患者」がすごい。 2017年4月号から翌年6月号に連載したものは、『作家がガンになって試みたこと』(岩波書店・2018年)という本になっているそうだ。
「安心しなさい、私に残された時間はそう長くはない。しかし、帰ってこなくてもいい、という非難を受けるほど私は他人に迷惑をかけた覚えはない」と、今回の「1 あ、酒を飲んでしまった」は、始まる。 高橋三千綱さんは、2012年64歳2ヵ月で食道ガンの告知を受け、翌年胃ガンが二つ見つかった。 でも、家族と友人のおかげで、愉快に、実に愉快に過ごすことができ、2020年1月5日、72歳になったというのである。
日本でも有数の内視鏡手術に長けたT大学病院の御大外科医のO先生、消化器内科の担当医W先生、慶應病院では放射線科の医者で今は医療相談専門のクリニックを開業している近藤誠先生などが登場する。 近藤誠先生とは、共著『がんを忘れたら、「余命」が延びた!健診、抗がん剤、手術に効果なし』(ビジネス社)を2017年に出版した。
もともと肝硬変があった2012年、破裂寸前まで膨らんでいる食道静脈瘤が10個以上見つかった。 その検査の過程で初期の食道ガンが見つかり、その手術はしなくていいと担当医にいったのだが、O先生が静脈瘤の処置をやってくれたついでに、食道ガンの手術も鼻歌まじりに片付けてくれた。 だが、鼻歌のあとに聞こえたのは、もう疲れた、ここらでいいだろうという言葉であり、実際患者にとっても手術そのものはかなりこたえた。 途中で麻酔が効かなくなったせいもある。
その2ヵ月後、アンモニアが脳に乱入して肝性脳症に冒され、死の淵をさまよった。 高橋三千綱さんは、愛犬の犬小屋を占領したり、深夜庭をさまよったりして、奥さんは部屋のドアに鍵をかけ怪人と化した三千綱さんから身を守ろうとした。 肝性脳症がどうにか治まった半年後、「グループ5」の胃ガンが見つかった。 末期ガンに相当するもので、すぐに手術しなければ半年後にはどうにもならなくなると、説明を受けた。 内科医と大御所O先生から諭されたが、手術を拒否した。 放射線、そして手術、その後抗がん剤治療、死ぬまで副作用に苦しむ、という手順がわかっていたからである。
それに手術したら半年も経たないうちに死ぬだろう、しかし、何もしないで放っておけば三年くらいは生きられる、それだけの時間があれば新作が書けると目論んでいた。 65歳から68歳までは胃ガンをかかえてひっそりと生きていこうと健気に考えていたのである。
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