懐かしい店の名と映画2008/07/11 07:18

 何日かして歌舞伎座のあたりを白百合以来の友達と歩いていた満佐子は、偶 然三島由紀夫と会い、三島は明日の午後暇かと聞いて、名刺に“午後五時、有 楽町ビクトリア”と書いて渡す。 翌日は、銀座のケテルス。 そのあと、二 人の逢引する場所や観た映画が、何か懐かしいものばかりなのだ。 東京がそ れだけ狭かったということなのだろうか。 当時私は子供だったが、歌舞伎好 きの祖母や母に連れられて芝居を観たり、五つ上の兄に連れられて、よく映画 を観ていた。 不器用そうな手つきの男に代わり、帯締の結び目だけは満佐子 が自分で解いた、松濤の旧大名家の屋敷の跡のような旅館は、もちろん知らな いけれど、学生時代に友達の家が松濤にあり、近所にそんな雰囲気の家もあっ た。

 『見出された恋』から、拾ってみれば、東京會舘プルニエ、千疋屋(新橋の 芸妓が行くから銀座八丁目だろう)、ハンガリヤ、並木通りのアラスカ、花の木、 日動グリル、アメリカンファーマシー(日活国際会館一階)、田村町の中国飯店、 新雅(シンヤ)、江安餐室、築地の福新楼、そして名前だけは聞いたことのある、 銀馬車、コスモポリタン、ブルー・スカイ。 映画は、『掠奪された七人の花嫁』、 『ダンボ』、シナトラの『黄金の腕』、『雨に唄えば』(そういえば6月17日シ ド・チャリシーが死んだ、86歳だったという)。