ちくま新書の新刊二冊2012/03/27 03:42

 二冊目は、10日発行のちくま新書、坂野潤治著『日本近代史』。 帯は「第 一人者が一望に収める! この国の今を運命づけた80年」。 1857(安政4)年 からの近代日本の歩みを「改革」「革命」「建設」「運用」「再編」「危機」の六つ の時代に分け、1937(昭和12)年で終わっていて、「崩壊」の8年間は、書かれ ていない。 坂野さんは、「崩壊の時代」に入っていった最大の原因は、すでに 国内の指導勢力が四分五裂していて、対外関係を制御できなくなっていたから であり、近衛内閣はこの分裂状態を克服しないで固定化し、そのまますべてを 包摂してしまった、という。 そして以後、異議申し立てをする政党、官僚、 財界、労働界、言論界、学界がどこにも存在しない、と。

 東日本大震災後の現在、政治指導者たちは、ちょうど昭和10年代初頭のよ うに、四分五裂化して小物化している。 「明治維新」や「戦後改革」と同じ ような期待は楽観にすぎない。 歴史に「興」と「亡」はいつもセットだ。 「明 治維新」の「興」と「昭和維新」の「亡」、「戦後改革」の「興」から66年、「亡」 を克服して「興」へ向かう次の指導者たちが、求められている、と。

 三冊目は、同じくちくま新書、山本博文訳・解説『現代語訳 福澤諭吉 幕末・ 維新論集』。 選ばれているのは、「旧藩情」「痩我慢の説」「明治十年丁丑公論」 「士人処世論」の四編。 山本博文さんは東大史料編纂所教授、『江戸お留守居 役の日記』(講談社学術文庫) で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。 官尊民卑 を攻撃した「士人処世論」の「まえがき」の、訳文の一部を引く。  「今、日本の士人(学問を修め教養のある者)の行動を見ると、世に官吏の職 業ほど尊いものはないと思い、ただ仕官することだけに熱中煩悶(はんもん)し ているようである。その見苦しい姿は、傍観するにも堪えがたいものがある。 /思うに彼らは、封建時代の名残りに影響され、社会において権力を振るい事 をなすには、官吏となるよりほから道はないと固く信じているようである。」