丸谷才一さんの「銀座の本屋」 ― 2014/06/23 06:22
丸谷才一さんの歿後に編集刊行された最後の文集『別れの挨拶』(集英社)を パラパラやっていたら、同感する一文に出っくわした。 銀座に気のきいた本 屋がなくなって、心弾まないというのである。 近藤書店と、その二階のイエ ナ。 近藤書店について丸谷さんは、ご自分の本が日本で一番よく売れる店だ という思い込みがあったという。 最初のベストセラー『たった一人の反乱』 が出たばかりの頃、叔母さんであるデザイナーの笹原紀代さんが、この店で買 物をしていたら、目の前で立て続けに二冊売れ、「とてもいい気持」と語ったこ とがあったからだ。 イエナは、大学が相手の洋書屋と違い、新刊書中心なの でいきいきしていた。 キングズリ・エイミスの酒の本を見つけ、ただちにビ アホールへ行って斜め読みし、これは当るなと思ったので、「ぼくは翻訳しない よ」と念を押した上で講談社の徳島高義さんに進呈した結果、あの吉行淳之介 訳『酒について』という大ベストセラーが生れた。
今の銀座は女の子のためのおしゃれの店ばかりで詰らない。 一流の盛り場 には、それにふさわしい本屋が必要だ、というのである。
もちろん、銀座には教文館があるし(私、馬場も最近は教文館に行く)、その 他いろいろある。 しかしどれも銀座の本屋という都市的な雰囲気がないね。 陰気で、しょぼくれている。 それに教文館は二階へ昇ってゆくのが面倒くさ いでしょう。 何だか気がめいる。 重苦しい作りの階段で、新刊書を覗こう という浮き立つ気分にならない。 あれはそもそも、本を買う趣味のない、小 説本なんか親の仇みたいに思っている信仰心の篤い建築家に設計を頼んだのだ ろう。 ひょっとすると教会建築の専門の人で、内村鑑三の弟子筋かもしれな い。(ここを読んで、私は思わず、噴き出してしまった。)
丸谷さんは、まず裏口からエレベーターで5階か6階の洋書部へ行く。 こ こは役に立ち、西洋古典の英訳なんかを買うことがある。 それからエレベー ターで2階に降りて、岩波やみすずの棚を見わたす。 実物の本というものは 変に取柄のあるもので、広告で見たときはいっこう気を惹かれなかった本を、 ついふらふらと買ってしまうから不思議だ、というのである。
家内が見て来たのだが、今、教文館の9階ウェンライトホールで「花子とア ンへの道 村岡花子 出会いとはじまりの教文館」という展覧会が7月14日(月) まで開かれている(期中無休、11時~19時)。 エレベーターで9階へ行って 展覧会を見たら、2階に降りて、大人の読むような本がきっと見つかる棚を、 眺めて来ることをお勧めしたい。
最近のコメント