権太楼の「二番煎じ」後半 ― 2016/03/10 06:24
鍋が煮えたよ。 箸が一膳しかない。 回り箸で、黒川先生、年上だから、 二ッつずつ。 猪(しし)の肉は、初めてのような…。 これは美味ですな、 知らないで、年を重ねたのが恥ずかしい。 これは娘に買わせましょう、どこ で売ってますか、宗助さん。 隣町のももんじ屋で、売ってる。 けっこうで すね。 <番小屋で猪鍋食べてシシシシシ>、<猪鍋や北風ぴゅうぴゅう吹い ている>。 よくない、これはよくない。 箸を貸しなさい、伊勢屋の旦那に。 私は葱が好きなんで。 アッ、中の芯がピューッと飛び出て、熱い。 葱が好 きだといいながら、葱と葱の間に肉を挟んでますね。 見っかっちゃったか、 実は肉が大好きで…。 明日も番頭は寄越さない、寄せ鍋をやりましょう。
都々逸の回しっこなんかどうです。 ♪炭俵、もとを質せば、野山のすすき、 月と遊んだ頃もある。 ヨーヨーヨー。
バン! 蒲鉾屋の犬が、匂いを嗅ぎつけたか。 バン! シッシッ! バン! バン! シッシッ! 番の者は、おらんのか。 役人だ! 土瓶を隠して。 鍋 は駄目だ。 宗助さん、そこに座りなさい、あんたが持って来たんだから。 ア ッ、ふんどしにおつゆがしみる。
皆の者、そつがなく回っておるか。 先ほど、拙者がバン!バン!と申した ところ、シッシッ!と申したのは、なぜか。 ここにいる宗助さんが…。 俺 の名前を出すなよ。 土瓶のようなものを隠したようだが、あれは何か。 風 邪で、煎じ薬を煎じておりました。 拙者も一服、所望したい。 しようがな いよ、お役人様に、一献献じよう。 結構な煎じ薬である。 これで同罪だ。 鍋のようなものも、あったようだが…。 あれは、煎じ薬の口直しで。 出所 がよくない。 すまないな、辰っつあん、お相手をして。 駆け付け三杯と申 します。 口直しをどうぞ。 こんなのはどうでしょう、<役人に叱られなが ら猪の味>。 少し味が薄いような気がする。 宗助さん、ふんどしを絞って。 煎じ薬を、もう一杯所望じゃ。 煎じ薬が切れました。 では、拙者もう一回 りして参るので、二番を煎じておくように。
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