日米合同の原発「産業政策」、東芝のWH買収2017/04/23 06:16

 竹森俊平教授は、福島第一原子力発電所事故の問題を考え始め、原発はビジ ネスモデルとして破綻しているのではないかという素朴な疑問を抱く。 まず 原発のトータルコストについて調べ、ミルケン研究所の2007年のレビューで、 世界の主要機関の研究が「もし化石燃料による発電に対して、炭酸ガス排出へ の課徴金が掛けられず、さらに原子力発電に対して特別の補助金がなかったと したら、(以下傍線)≪原子力発電への投資は同じ発電量の微粉炭発電(粉末化 した石炭を用いた発電)に匹敵できない≫」としているのを知る。 「原発は コストが高い」のは、世界の専門家の常識だった。 だが日本では、原子力政 策の推進という「国策」を遂行している電力会社が原発を建設するから、資本 コストも国債並みの低金利に抑えられる。 市場は、「国策会社」が危機の際に は政府が救済すると判断して、電力債を引き受けても支障がないのだ。

 1980年代のレーガン政権から、1990年代のクリントン政権の時期、日本の 非関税障壁を問題視する日米経済摩擦が激化した。 それによって消滅した通 産省の伝統的な「産業政策」の中で、「電力産業」だけは例外的に展開し続ける ことができた分野だった。 電力は容器につめて輸出することができない。  1979(昭和54)年のスリーマイル島事故以来30年、ほとんどの先進各国で原 発の新設がストップしていた。 アメリカは自国メーカーのための原発市場の 拡大に、さほど執心していなかったのだ。

 2000年代の中頃になって、アメリカ政府の方針が変化した。 新興国での原 発ラッシュがその原因だった。 スリーマイル島事故以来30年、原発の生産 を停止していたアメリカは、そのギャップを埋めるために、日本との提携によ る日米合同の「産業政策」という斬新な方式を取ることによって、自らも原子 力の「産業政策」を推し進めようとしたのだ。 2006(平成18)年、東芝が アメリカの主力原子炉メーカー、ウェスチングハウス(WH)社を買収した。  東芝の西田厚聡社長の狙いは、中国市場ではなく、世界最多の103基の原発を 保有しながら、30年近く新設のない米市場にほかならない、という2006年6 月9日の日経産業新聞「原発復活」「原油・天然ガス高で再評価」記事を、竹 森教授は引用している。 今日の東芝危機の原因である。