立川雲水の「看板のピン」本篇2018/05/03 06:47

 「手本引き」のほかに、「賽本引き」がある。 サイコロは、1の裏は6、2 の裏は5、3裏は4と、表裏足して7、合計21になる。 (羽織を脱いで)お やっさんじゃないですか。 若いもんが集まって、何遊んでるんだ。 「賽本 引き」で遊んでる、いっしょにやったらどうです。 この年寄から、金を巻き 上げようってのか。 一丁やるか、一勝負するか。 壺皿と賽を貸せ、胴を取 る。 四十で、故(ゆえ)あって足を洗ったんだ、嬉しいよ。 張った、張っ た。

 (小声で)壺から、賽がこぼれてるぜ、ピン(1)だ、耄碌してる、むしっ てやったらいい。 むしったろー、むしったろー、おやっさんを。 みんな、 クイチ(1点張り?)は五倍だ。 みんな寄って、クイチで勝負か。 おやっ さん、泣き入れても駄目だぜ。 家を始末して、娘を売り飛ばしても、払う。  兄貴から預かっている銭も、張らしてもらう。 もう張り手はおらんか。 看 板のピンは、こっちへどかしてもらう。 看板かい。 薬屋にも足袋屋にも、 表には看板がある。 客集めの看板のピンだ、泣くな。 勝負は壺皿の中だ。  壺の中は…、5だ。 泣くな。

 博打事には、上があるんだ。 張った分だけ、持ってけ。 これに懲りて、 真面目に働け。 おやっさんの言葉、身に沁みました。 5と読んでましたか?  最前使った賽は、2の所に鉛が埋め込んである。 博打は恐ろしい。 その賽、 ほかすんなら、ワシに預からしてもらえませんか、足止めの道具に頂かせて下 さい。

 ありゃあ、いい手だな。 これで銭儲けしてやろう、伝家の宝刀だ。 博打 やってか、ドンドン! 大きな声出すな。 (小声で)始まっているか。 表 で大きな声出して、中で小さな声になる奴があるか、入ってけ。 この年寄か ら、金を巻き上げようってのか。 お前、一番若いじゃないか。 一勝負させ てもらおうか、胴取らせてもらう。 四十で、故あって足を洗った。 お前は、 毎日やってる、二十四だ。 勝負や、どんと張って来い。 クイチで張ってき よったな、勝負は壺の中だ。 泣きを入れても駄目だぜ。 家を始末して、娘 を売り飛ばしても、払う。 お前、徳さんの居候じゃないか、娘なんて、嫁も いないくせに。 今日び、娘に、酒飲んでキスする奴もいる、驚かへんか。 看 板のピンは、こっちへどかしてもらう。 壺の中は…、5だ。 みんな、クイ チで5に張ってる。 どうしてこうなんだ。

 おやっさんに、教わったんだ。 儲けた銭は、半分おやっさんに、かもられ る。 お前が、インチキをやるなんて、おこがましい。 必ず5が出るサイコ ロや、2(荷)が重い。