「保守」とは? 「永遠の微調整」を重視2018/05/10 07:19

 「保守」とは、どんな思想なのか。 中島岳志さんは、近代という時代の中 で生み出された歴史的で特殊な立場が「保守主義」だとするカール・マンハイ ムから説きおこし、同時代に起きたフランス革命を厳しく批判したイギリスの 政治家エドモンド・バークを祖として近代保守思想は誕生したと言う。 バー クはフランス革命を支えた左派的啓蒙主義に疑問をぶつけ、革命家や啓蒙主義 者たちは人間の理性を間違いのないものだと考えすぎているとし、人間はユー トピアを合理的に設計し、構築することができるという人間観が共有されてい ることに、違和感を表明する。 冷静に人間を見つめてみると、どんなに頭の いい人間でも世界を完全に把握することはできず、時に過ちや誤認を犯してし まうことに気づく。 人間は知的にも倫理的にも不完全な存在なのだ。 バー クは、フランス革命が人間の完成可能性を前提としている点を厳しく批判し、 人間の不完全性を強調した。

 不完全な人間が作る社会は、永遠に不完全であり、完成などしないけれど、 そのことを冷静に捉えることができるのが、真に理性的な人間だと見なす。 で は、不完全な社会を安定的に維持し、秩序を維持していくには、どのようにし けばよいのか。 バークは個人の理性を超えたものの中に英知が宿っていると 考え、その存在に注目した。 それは多くの庶民によって蓄積されてきた良識 や経験知であり、歴史の風雪に耐えてきた伝統である。 頭のいいエリートが 書いた設計図や思想よりも、多くの無名の人たちが長い時間をかけて紡ぎ上げ てきた経験知や良識に、まず依拠してみるのが重要なのなのではないかと、考 えたのだ。

 いくら集合的な経験知といっても、その中には過ちも含まれているし、限界 もある、世の中はどんどん変わっていく。 50年前には素晴らしかった福祉制 度でも、人口構成が変われば、そのままでは意味をなさない。 大切なものを 守るためには、変わっていかなければならない。 そのために、バークは「保 守するための改革」が重要だと言った。 左派の革命のように、「これが正しい」 と一気に世の中を改造しようとするのではなく、歴史の中の様々な英知に耳を 傾けながら、徐々に変えていくことが望ましい。 改革は常に漸進的(グラジ ュアル)でなければならない。 保守が重視するのは、「革命」ではなく「永遠 の微調整」だ。 そこには過去の人間によって蓄積されてきた暗黙知に対する 畏怖の念が反映されている。