三遊亭歌武蔵の「甲府い」前半2019/06/07 07:19

 本日のしんがりで、どうやってネタを仕込むんですかと聞かれるが、面白い ことがないかと、表を歩く。 今、表はパラッと雨が降って来た。 電車や地 下鉄で寄席に来るけれど、雨だとバスに乗る。 半袖で出かけたら、幼稚園の 年長ぐらいの男の子が、「トトロがいた、トトロがいた」と言った。 傘を回し て「ガオーッ!」と吠えた。 困った顔をしていたお母さんが、「ありがとうご ざいます」、と言った。

 テレビのCMを見ていて、一人で笑った。 俳優が礼服を着ていて、お葬式 にいくらかかるか検索してみると、かなりかかる。 「小さなお葬式」という 宣伝。 「早割なら、さらにお得」に笑った。 お祖父さんが5月29日に逝 くみたいというんで、20日に頼んだら、お得になるのか。 ガスバーナーの火 力が強くなるとか、祭壇が一段増えるとかか。 遅くなると、棺桶の蓋がない。

 落語研究会、恒例で、なぜか場所後に呼ばれる。 平幕優勝した朝乃山、ト ランプ大統領が来ても、みんなスマホを向けていて、拍手をしない。 トラン プめがけて座布団を投げましょう、SPが銃を向けます。 大番狂わせを期待 していた。 それが二日前の十三日目、朝乃山対栃ノ心の一戦、栃ノ心はなか なか大関復帰の十番が勝てない、朝乃山に一方的に寄られて辛うじて叩き込ん だが、栃ノ心のカカトがついたと物言いがついた。 6分間の協議をして、ビ デオ室では3人見ているのに、益荒雄の阿武松審判長が砂ぼこりが上がったで 押し通した。 栃ノ心が勝っていれば、朝乃山も栃ノ心も、鶴竜(この日高安 に負けた)も3敗で並び、優勝の行方はどうなるか分からなかった。 阿武松 が、大番狂わせをやった。 千秋楽、トランプ大統領も不思議だったろう。 横 綱でもなく、御嶽海に負けた朝乃山に、大統領杯を渡した。 八角理事長もボ ンヤリしていたから、何と説明したか、わからない。 異例のおもてなしでも、 それはそれ、これはこれ、自動車問題では一歩も引かないだろう。

 袖擦り合うも多生の縁、蛤と帆立が鍋で巡り合い。 金公、何しやがんでえ、 他人様(ひとさま)の頭に手をかけるんじゃない。 豆腐屋の店先で、卯の花 を食らって、金公に叩かれたのは、お前さんかい。 えかく腹が減っていたも んで、すみません。 おからを買う銭がない、からっけつで、生れは甲州、甲 府の在(ゼイ)、小さい時分に両親に死なれ、伯父伯母に育てられた。

なんとかなるまで国に帰らないと、身延山に五年の願掛けをして出て来た。  浅草の観音様にお参りし、仲見世でどーーんとぶつかられたら、財布がなかっ た。 掏られたね、生き馬の目を抜くという江戸だ。 身延山に願掛けをした というなら、法華かい、ウチも法華のカタマリだ。 同宗の人か、飯食いな。  ばあさん、おかずは生揚げでもなんでもいい。 オハチにお目にかかります。  勝手にやっておくれ。

 繁盛している店で、他人の面倒もよく見る。 オハチ洗いますか? 今朝炊 いた一升五ン合、一人でやっちまったのか。 ハッハッハ、こっちに座んな。  これからどうする? あてはない、葭町に口入屋があるそうなので、そこへ行 くつもりで。 江戸で奉公しようってのか、国に帰らないで、乗り越える料簡 が偉い。 ウチで働いてみる気はないか、大きな豆腐屋から金公をこっちへ回 してもらいたいと言われているんだ。 まず天秤棒担いで売って歩く、ウチの 売りはがんもどきだ。 売り声は「とーふぃー、胡麻入り、がんもどき!」 お 前さん、やってみるか。 「パクパク、パッ!」 金魚じゃないぞ、ゆっくり、 落ち着いて。 「トーー、フィーー、ゴマーーー、イーーリーー、ガンモドー ーキー!」 怖いよ、おどろおどろしいよ。  担ぎっぷりがいい、田舎で肥担桶(こえたご)担いでいたからか。 名前を 聞いてなかった。 卯年生れで、卯ノ吉。 卯の花を食らうわけだ。 一人娘 のお花も、卯年だよ。 朝、早いぞ。