春風亭一之輔の「花見の仇討」後半2020/05/30 06:59

当日、熊さん、朝から上野の摺鉢山の切り株で、プカーーリプカーーリ煙草 をやっている。 六十六部の六ちゃん、御徒町までやって来たところで、前か ら本所の伯父さんが…、耳は遠いが目が利いて声がでかい。 そっち歩いてん の、六だろう。 こんちは。 何だって、真っ昼間から、こんばんはなんて言 う奴があるか。 第一、その恰好はなんだ、お袋一人残して、旅に出るのか。  花見で。 相模へ行くのか。 趣向です。 四国へ行くのか。 話を聞くから、 家へ来い。 伯母さんが留守で、酔わせて戻ろうと、伯父さん一杯飲むかと、 笈櫃から酒を出して勧める。 伯父さんは酒が強くて、六ちゃんが先にベロン ベロンになった、もういいか。

巡礼兄弟が、上野の山へ向かっている。 いい天気だね、気持いいね、稽古 しようか。 歩きながら、仕込み杖を振り回して、侍に当った。 無礼者、何 だ、その方らは、御成街道で杖など振り回しおって、無礼討ちにしてくれる。  金ちゃん、何か言ってくれ。 よく見れば、それは仕込み杖ではないか、その 胸に何か大望があるのか。 我等兄弟、七年前父を殺した仇を討たんとして…。  聞いたか、近藤。 そのような大望があったか、いいから行きなさい、もしや 仇に逢うような場に行き合わせたら、我等も助太刀をいたすぞ、行け! あり がとうございます。

熊さん、朝からずっと煙草を喫みっぱなしで、喉がいがらっぽくなっている。  いつまで、待たせるんだ。 いつも、きっとこうなるんだ。 花見の雑踏を、 巡礼兄弟がウロウロ。 ここだよ、アーーア。 あれだ、オーーイ! 手を振 るな、早く来いよ。 卒爾ながら、火を一つ、おん貸し下されたく。 プワー ーッ。 飛沫が飛んでくる、目に入ったら、今時、大ごとだ。 ヤァーー珍し や、汝は丸山幸之助やな、いやいや麻生太郎やな、七年以前国許においてわが 父を討って立ち退きし大悪人、我等兄弟、仇を討たんと艱難辛苦いかばかりか、 一日千秋の思い、ここで逢うたが盲亀の浮木優曇華の、花待ち得たる今日只今、 いざ尋常に勝負、勝負! 何を、返り討にしてくれる!  笠の緒が解けない、 堅結びになっていて解けない、歯でやってくれ。 痛い! 松ちゃん、親の仇 だ。 アジのタタキ、アジのナメロウか。 本身を抜いて、チャリン、チャリ ン、やっていると、黒山の人だかり。 開店すぐで、マスクまだあるんじゃな いか状態。 浪人に石を投げて、巡礼兄弟の応援をしてやろう。 石、投げん な、こんなに人が集まって来るとは思わなかったな。 六部、出て来ないな。  松ちゃん、大丈夫か? もう、腕がパンパン、つらいよ、家に帰りたい(と、 泣く)。 寄れい、寄れい! 町人、何だ、仇討ちか、最前の兄弟が仇に巡り合 ったのか。 寄れい! 巡礼に助太刀を。 一人号泣、目の前が真っ白。 も うすぐ終わるよ。 天運が叶い、仇に巡り合ったようだな。 さっきは、有難 うございました。 これなんです、仇は。 憎体(にくてい)なツラをしてや がんな、お前、討たれろ。 弟、泣くな! 弟、突け! 相手は、隙だらけだ。  危ないよ。 天誅だ、助太刀いたす。 両方が、逃げ出す。 これこれ、逃げ るには及ばん、俺の見るところ、まだ勝負は五分と五分だ。 いいえ、肝心の 六部がまだ参りません。