「酒呑みだけが名を留める」李白の詩2023/01/26 07:06

 二木屋の欄間に、李太白の詩の額があった。 木堂とあるから、犬養木堂、犬養毅の書だろう。 創業者の小林玖仁男の祖父で、昭和10年建築のこの軍人の屋敷を買ったという小林英三(明治25(1892)年~昭和47(1972)年)という人が、保守大合同した自由民主党最初の鳩山一郎内閣の厚生大臣だったというから、その縁での犬養毅の書だろう。 小林家は、先祖が毛利家の家老で、尾道で商人になり林を屋号にしていたので、林を二つにわけての二木屋なのだそうだ。

李太白の詩は、「古来聖賢皆寂寞 惟有飲者留其名」。 ネットで検索すると、「将進酒」酒をお勧めする、という詩の一節。 古来(こらい)聖賢(せいけん)皆寂寞(みなせきばく)、惟(た)だ飲者(いんじゃ)のみ其(その)名を留(とど)むる有り。 昔から聖路や賢人は幾人もいたが、死んでしまえばそれまでだ。ただ酒呑みだけが、その名を留めている。 酒を飲めないので、二木屋の日本料理のような美味しいものに出合う機会が少ない。 酒を飲めないために、どれだけの交遊や愉快な時間を逃してきたかと思うことがある。

正月事納め8日の「天声人語」、「ソバーキュリアス」というカタカナ言葉にハッとさせられた、と。 「直訳すれば、しらふの好奇心。あえてお酒を飲まないことで得られる気づきといった意味か▼作家の桜井鈴茂(すずも)さん(54)がそんな断酒の生き方を始めたのは3年前。ひどい二日酔いがきっかけだった。すぐに気づいたのは「1日の時間が長く感じられるようになりました。頭がすっきりし、夜には読書もできる」」 和製英語なのだろう、curiousは形容詞だから、名詞にすれば sober-curiosityか、sober-curiousnessとなるのかな。

そういえば、「われわれが酒を飲んでいる間に、馬場さんは本を読んでいるんだろう」と、ずいぶん買いかぶってくれた方がいた。 実態は、居眠りをしながらテレビの巨人戦を見ているのであるが…。

「天声人語」は、「確かに人類の歴史はお酒との歩みにほかならない。」として、晋代の陶淵明の〈夕(ゆうべ)として飲まざるなし〉、李白の名詩〈一杯一杯また一杯〉〈一飲三百杯〉を引き、「もしも偉大な詩人たちが晩年に禁酒していたなら、どんな詩を残していただろう」、「飲むか。飲まないか。人間らしい悩みのなかに新たな気づきをみつけたい。」と締めた。