三遊亭萬橘の「棒鱈」後半 ― 2024/03/09 07:02
お前たち、オラを呼ばったんべえ。 何だ、お前は? だから、芸者だよ。 俺たちは幇間(タイコ)を呼んでない。 きれいなのは間違えて隣へ行って、これを頼んだんだ。 寅さん、あきらめろ、今日は運が悪かった。 お前、幾つだ? 69、若いでしょ。 踊りなら、村で一番だった、アラ、エッサッサ! いつから、出てきた? 一昨日。
隣では、アカベロベロの醤油づけを食べた侍に、歌をせがんでいる。 ならば『もずのくちばす』を。 「♪サブロベエーの目ん玉ひっこぬいて、たぬきゃーの腹づつみスッポンポン」。 寅さん、隣で誰か殺されたぞ。 歌だよ。 隣で何か言っとるが。 気になさらずに、お隣のお客様同士のお話ですよ。
では『十二カ月』を、三味線はいらんぞ。 「♪イチガチーは、松飾り、ニガチーは、初午テンテコテン、サンガチーは、雛祭り、シガチーは、お釈迦様の誕生日」。 寅さん、帰ろうか。 都々逸なんか、乙な文句がある。 「♪婀娜な立膝鬢かきあげて忘れしゃんすな今のこと」「♪明けの鐘ゴンとなる頃三日月形の櫛が落ちてる四畳半」。
隣も負けじと、「♪りゅうきゅうおじゃるならー、わらず履いておじゅれー、ひたりゃひとよめ、みろくまんずの、くわんぱくわんぱ、一つ二つ、パッパー」。 死にたいよ、隣を見てくる。 確か、ここだ、ちょっと開けて、覗く。 ダボ鯊みたいな顔だ。 オラにも見せて(と、かの芸者)、あの男か、いい男でねえか。 芸者は、いい女だろ。 オラの村なら、ケツから何番目かだ。 お前は? 上から二番。 押すな、向うへ行きな。 アッ、ドスン! 障子が倒れた。 すみませんね、そういうつもりじゃなかったんで。 あいすみません。 人間が降って来る天気でも、あんめえし。 お前か、妙な歌を歌ってるのは、芸者を上げるツラじゃない。 外へ出ろ、あにか、あにか。 お前を弟に持った覚えはない。 「アカベロベロの醤油づけ」ってのは、これか、顔で食え、ホレッ。 人の面体にアカベロベロをぶっかけおって、加えて悪口雑言、叩き斬ってやる、それへ直れ。 斬りやがれ。
何してんだ、お前。寅さんかい。 おぬしは連れか、それへ直れ、二人並べて四つにしてくれる。
下で職人が、ちょうど胡椒の粉を手に持ったところだった。 お侍さん、刀を下ろして下さい。(と、手を振る) お客さんも、喧嘩はやめて。(と、手を振る) 勘弁ならぬ、ヒーー、ハックション。 斬れるものなら、斬ってみろ、クション、ハクション。 まあまあ、へーー、クション。 ハクション、ハクション。
二階の喧嘩は、どうなった? 心配するな、コショウ(故障)が入った。
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