福沢の「自由」と「独立」の追求は、現在の課題の答 ― 2025/11/15 07:10
慶應義塾での、ウルズラ・フォン・デア・ライエンEU委員長のスピーチの続き。
貴学の創立者・福沢諭吉は、日本初の欧州そしてアメリカへの外交使節団の一員として活躍した。 彼は、言語と知識の両方を広めるため、東洋と西洋をつなぐ架け橋としてこの大学を創立した。 そしてこの精神こそが、今日に至るまで貴学の偉大な使命と伝統として受け継がれている。 福沢諭吉の話を最初に持ち出したのは、彼の人生と著作は、これから卒業していく学生たちが生きる世界について多くの示唆を与えてくれるからだ。
彼の全著作には、文明や教育、政治体制といった主題を貫く中心的な思想がある。 それは「独立の追求」であり、個人としての独立、国家としての独立の両方を意味する。 この自由と独立こそが、近代社会の礎であり、強靭でたくましい国家や大陸を築くための前提だと彼は考えていた。 ご存知のように、これは彼の代表作『文明論之概略』における中心的な概念の一つだ。 同著が出版されてから、まもなく150年の記念日を迎える。
記念日というものは、過去と現在を照らし合わせる絶好の機会だ。 福沢諭吉が生きた19世紀末は、今の時代に通じるところが明瞭にある。 つまり、勢力圏の復活から人類の未来を左右する技術の台頭まで、そして150年前と同じく重大な脅威が差し迫っている点から有り余るほどの機会が存在する点まで共通している。 今日の私たち、特にこの演説館にいる学生の皆さんが直面しているのは、この歴史の転換点をどう生き抜くかということである。 私たちの周りにある不安定な世界情勢を見渡す中で、欧州にとっても、日本にとっても、福沢諭吉の教えにこそ答えがあると私は確信している。 それが「自由」と「独立」の追求だ。
私の議論の出発点は、今の現実の世界に向き合うことにある。 私たちは、歴史の転換点において直面している課題を直視しなければならない。 私たちが今いるこの時代――そしてそれに対し私たちがどう対応するか――が、今世紀の行方を決めると私は考えている。
だからこそ、直面する劇的な変化にただ揺さぶられるだけであってはならない。 いずれ嵐は過ぎ去り、ある地域の戦争が終わりさえすれば、交渉が決着しさえすれば、次の選挙で違う方向に行きさえすれば、物事は元に戻るはずだというのは「まやかし」だ。 その理由は、地政学的な逆流があまりにも強いからだ。 私たちの安全と繁栄の土台そのものがあまりにも不安定だからだ。
だからこそ私は、21世紀のための新しい「自由」と「独立」の形を築くときだと考えている。 自らの防衛と安全保障を担うことを重視し、私たちの繁栄の礎となる新たな経済・産業モデルの創出に注力し、そして、民主主義と自由の基盤となる価値を守ることに取り組むのだ。
安全保障、繁栄、民主主義――これらすべてにおいて、欧州は今、歩みを進めている。 ここ数週間、数カ月の間に、わずか一、二年前には考えられなかったレベルで防衛投資に関する提案を行ってきた。 また、その投資に見合う形で産業とイノベーション、技術と科学と経済の中核に据える計画を提案してきた。 そして、民主主義が直面し、増大しつつある脅威から私たちの民主主義を守るべく毎日取り組んでいる。 自国にける非自由主義の台頭や、私たちを不安定化させることを狙った敵対勢力の試みといった脅威だ。 (つづく)
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