「里曳き」を見物2010/05/12 06:47

 樅(もみ)の巨木は、長さ約18メートル、幹回り約3メートル、重さ約10 トンあり、一本を約2千から3千人の人が曳いて運ぶ。 上社では本宮一之御 柱が一番太くて大きい。 安国寺の御柱屋敷から「里曳き」が始まる。 上社 の御柱の特徴は、前後に「めどでこ」と呼ぶV字型の柱を打ち込み、そこに人 が乗って、「よいてこしょ」と声を掛け「御幣(おんべ)」と呼ぶハタキのよう なものを振って、威勢をつけることにある。 甲高い木遣りを合図に、喇叭隊 (ドラムやシンバルを含む)が鳴らす、突撃ラッパのような、トルコの軍楽隊 のような演奏に、気合を入れられて、「ヨイサ、ヨイサ」と曳行が始まる。 木 遣りは、主たる謡い手のほか、子供たちの木遣り隊というのもある。 「めど でこ」乗りや元綱曳き、御柱をこじったり支えたりする梃子棒の係など、中心 になっている人たちに、若い人が多いのに驚く。 訊けば、ほとんど土地の人 ばかりで、このために帰って来るような人は少ないという。 6年の一度の祭 の魅力がそうさせているのだろうか。 末端に掃除隊がいるのが典型的なのだ が、全体に統制が取れ、真剣にそれぞれの任務を果たしていて、都会の祭にあ りがちのヤクザっぽい恐さが全くない。 見物の衆も、御柱と「めどでこ」に 向けて、拳を開きながら掌を突き出し、「ヨイサ、ヨイサ」と気を送る。

 門前町の御柱街道には、ところどころに桟敷席が設けられ、御柱行列の間に、 いろいろな出し物(パフォーマンス)が「里曳き」を盛り上げる。 子供の殿 様が白馬に乗った騎馬行列、(大名行列の)長持ち、龍神の舞、傘を使う大道芸 のようなもの、どじょうすくい、花笠踊り、よさこい踊り、神社境内の各種の 御諏訪太鼓奉納など。 大きな家や企業の桟敷席の前で演技をすると、ご祝儀 が出るらしい。 原則として女性が乗れないらしい「めどでこ」(例外を見た) や御柱周辺の曳き綱などの担当にくらべ、喇叭隊や出し物には女性の活躍の場 がある。 近年の傾向なのだろうと思われた。 古い伝統の祭に、いつ頃から ラッパやドラムを取り入れたのだろうか、花笠踊り、よさこい踊りの導入など にも、諏訪人の進取かつ寛容の気性が感じられる。

 2日午後からは、前宮の大鳥居を「めどでこ」がぎりぎりにすり抜け、本殿 への坂を登る前宮一、二、三の御柱をじっくり間近で見物した。 力を集中し て、爆発させる豪壮な迫力に圧倒された。