福沢の『全集』『緒言』『自伝』を生んだ原動力2010/05/22 07:07

 14日は「福澤先生ウェーランド経済書講述記念講演会」で三田演説館へ行っ た。 松崎欣一さんの「『福翁自伝』の成り立ちについて―晩年の福澤諭吉―」 だった。 松崎さんがどういう話をなさるかは、ほぼ見当がついていた。 2004 年の11月20日と27日の二回、福澤諭吉協会の読書会で「『福澤全集緒言』を 読む―晩年の福澤諭吉」というお話を聴いていたからだ。 この日記の 2004.11.22.「『福澤全集緒言』を読む」読書会、2004.11.29. 明治版の『福沢 全集』、2004.11.30. 福沢の筋書(理想)と現実との乖離、に書いた。 ブログで は読めないので、その結論ともいうべき、松崎さんの見解の大切な部分をまず 再録しておく。 「緒言」の読み、松崎さんは「しょげん」。

「福沢は『福翁自伝』の中で、自分の生涯で一番骨を折ったのは著書翻訳の事 業であるが、その次第はすでに刊行した『全集緒言』にあるので、これを省略 したと述べている。 そのように『福翁自伝』と『全集緒言』は姉妹関係をな すもので、福沢自身による生涯の総括として、本来は両方の本が読まれるべき なのだ。」

「松崎欣一さんは、晩年の福沢が、自らの長年の著作について、見る人は多く とも、真に読み、理解する人は少ないという実感を持っていたことが、『全集』 編纂の原動力となったのではないかと、指摘する。 文明の進歩発達とは、単 に有形の制度や物質にとどまらず、無形のもの、すなわち国民全体の智徳の進 歩が伴わなければならないという、文明の主義を説く福沢の年来の主張が、必 ずしも世間に浸透していない、またその真意が十分理解されていないという思 いが、主張の原点に立ち返って新たな著作『福翁百話』『福翁自伝』などを生み 出し、さらにはこれまでの著述活動を改めて振り返ろうという『全集』編纂『全 集緒言』執筆へと、福沢を突き動かしたというのである。

『全集緒言』と『自伝』の完成は、福沢が生涯をかけて、とりわけその前半 生において追求し発見した、西洋文明のかたちと精神を兼ね備えることのなか に日本の近代化を達成するという課題が、現実にどこまで実現しているのかを、 検証することになった。 そしてそのことは、結局のところ文明の精神を置き 去りにして、かたちだけの文明開化に終始している日本の社会の現実を見ない わけには行かなかったのである。 みずからの描いた筋書(理想)と現実との乖 離に対する福沢の「無限の苦痛」が、『全集』『緒言』『自伝』を生んだ。 『自 伝』と『緒言』が、福沢の前半生に大きな比重をおいているのは、自らが掲げ た維新変革期の理想の原理に、改めて立ち帰ることの必要を認識したからでは ないか、と松崎さんはいうのだ。」