歌奴の「電報違い」前半2011/12/27 04:14

歌奴は、2008年に歌彦から襲名した。 師匠は圓歌(三代目)になっている「山 の、あな、あな」の先々代歌奴(先代は亡くなった)。 「電報違い」は、初代 圓歌の大正時代の作で、私が子供の頃よく聴いていたあの「電話の円歌(円の字 を使っていた)」は二代目なのだそうだ。 珍しい噺で、師匠に教わったのは、 兄弟子の歌橘と二人しかいない。 後世に伝えて行かなくてはと思っている、 と言う。

日本橋石町(こくちょう)一丁目の生薬屋、大和屋の旦那と店の新さんの二人、 汽車でお伊勢参りに行き、熱田神宮にも詣で、名古屋で遊んで泊りを重ね、名 古屋8時の夜行で帰ることになった。 橋の欄干で若い二人が、南無阿弥陀仏 と手を合わせている。 新さん身投げだ、そっと近づいて、旦那は女の方を選 び、新さんはやむなく男を捉まえ欄干から降ろす。 泊まっていた宿屋に戻っ て、二人を部屋に入れて、旦那が話を聞く。 新さん、郵便局へ行って電報を 打って来ておくれ、「アスアサカエレン」、夕方5時までは15字まで30銭だ、 30銭渡しとく。

 電報はどこ?  三番窓口だなも。 窓口は東京の言葉、神田の人で、近く親爺の三回忌で東京へ行くという。 東 京に来たら、日本橋石町一丁目の生薬屋、大和屋に寄ってくれよ。 市電と競 争して、十台追い越したことがある、停電だったけど…。 名古屋ではゆっく り遊んで、旭って遊廓にも行った。 いい女が揃っていたよ。 俺の敵娼(あい かた)は、今晩寝かさないよって、くすぐってあげるからとコチョコチョ。 (人 だかりが出来て…)すみません、表に立たないで下さい。 あなた、何しに来た んですか? 電報を打ちに来た、旦那と東京に帰ろうと名古屋の駅に行き、橋 の欄干で……。 ここから話さないとわからない。 用紙があるから、書いて 下さい。 俺に字が書けるんなら、こんなに話はしない、二人とも声を嗄らし ておめでとう。 「アスアサケエレン」。 「アスアサカエレン」でしょ、宛名 は日本橋石町一丁目大和屋、打つ方は? 旦那。 名前は? 知らない。 ず っと可愛がられている、12の年から、旦那と新さんで25年。 では「ダンナ」。 15字で30銭、あと三文字大丈夫だろう、俺の名、「シンタ」を入れてくれ。 15 字で60銭です。 30銭じゃないの。 それは夕方5時まで。 4時45分に来 たけれど、……今7時か。 30銭しか持っていない。 じゃあ、明日の朝、打 っておきます。