歌奴の「電報違い」後半2011/12/28 04:22

 新さん、遅いじゃないか、電報一本打つのに何時間かかっているんだ。 郵 便局の野郎が、おしゃべりで…。 お二人の話は聞いた、男の人は半七さん、 女の方はお花さん、恋仲だ。 お父っつあん同士が、お医者さんと、品川の大 きなお寺のご住職で、たいへん仲が悪い。 二人の仲を絶対許さないところに、 お花さんのおナカが大きくなってきた、いっそあの世で添い遂げようというこ とになった。 私は、品川に寄って、ご住職に話をします。 新さんは、先に 店に帰っておくれ。

 宿屋の小僧が、走り込んで来る。 番頭さん、大変なことです、8時発の夜 行列車が、安城(あんじょう)で下りの貨物列車と正面衝突、死傷者が多数出て いるそうです。 それは私たちの乗るはずの汽車じゃないか、お二人を助けた と思ったら、私達の命を助けてくれたんだ。 どんちゃん騒ぎの祝い酒となる。

 号外!号外! 名古屋20時発の夜行列車が正面衝突、死傷者が多数。 大 丈夫、旦那の手紙には「8時の夜行に乗る」とある。 20時と8時だ、12時 間離れている。 番頭さん、鉄道の時計は24時間、20時は午後8時のことで すよ。 そうか、大変だ、それ旦那が乗る列車だ。 電報!電報! いやな予 感がする。 「アスアサカエレンダンナシンダ」 新さんだけ、助かったんだ。  おかみさんに話をしなければ、誰か寺へ行って、という訳で、お経が始まる。

 新さんは、誰も迎えが来ないので、重い荷物をひっちょって、帰って来る。  いいな、江戸の香りがするな、あれ線香の匂い、どこだ。 大和屋に「忌中」 の札。 ウチじゃないか、おかみさんか、番頭さんか。 オッ、新さんだ、驚 いたろ、旦那の身柄はどうなっている? 心配しなくてもいい、番頭さん、旦 那は品川のお寺に参っております。