乙川優三郎さんの『クニオ・バンプルーセン』2023/11/30 07:04

横田基地家族住宅

 昨日午後、屋久島沖で墜落した米軍のオスプレイは、東京都の横田基地所属だった。

 乙川優三郎さんの『クニオ・バンプルーセン』(新潮社)を読んだ。 10月に出る本の広告に、「この国の美しさは文学にある。米兵の父を持ち、基地で育ったクニオ・バンプルーセンはその美に魅せられ、編集者となる。作家と格闘し、理想の本作りをめざした男の生涯」とあった。 草刈正雄の回をNHKテレビの「ファミリーヒストリー」で見ていた私は、正雄とクニオを重ねてしまった。 草刈正雄の父は、朝鮮戦争で九州福岡県の築城の基地にいた若い米兵で、バスの車掌だった母と知り合った。 ひとりで正雄を産み、小倉で苦労して育てた母は、父は朝鮮戦争で死んだと正雄に言い聞かせていた。 しかし、この番組の調査で、実は生きてアメリカに帰っていたことがわかる。 97歳になる叔母が見つかり、はっきりしていて、当時のことは申し訳なかったと言い、草刈正雄が対面することができた。 その続編は12月に放送予定という。

 クニオの父ジョン・バンプルーセンは、朝鮮戦争ではなく、ベトナム戦争だった。 「ニッケル」と呼ばれた複座式戦闘機のパイロットで、横田基地から出撃する任務は、アメリカ軍の攻撃を自在にするために北側(てき)の地対空ミサイルの囮(おとり)になることで、ひとつ間違えば撃墜される運命にあった。 母の真知子は結婚前から基地に勤めていたので、なにかあるときの気配に敏感で、ジョンがベトナムに向かう度に、クニオとともに無事の帰還を祈った。

 この「ニッケル」を囮に使う自傷的な作戦は地対空ミサイルでソ連に遅れをとったアメリカの窮余の策であったが、果たして多くの「ニッケル」を失うことになり、ジョンの生還は奇跡に等しいものになりつつあった。 「ニッケル」は五セント硬貨のことで、安い命を意味した。

 「ニッケル」から、幼時B29の空襲を体験していた私は最初、戦闘機の機体の素材だと思い、「ジュラルミン」という言葉を思い出した。 しかし、召集令状の発送の葉書代、「一銭五厘」と呼ばれた安い命と、同じ言葉だったのだ。

 2022年6月に三田あるこう会で、福生から昭島まで歩き、横田基地のベースサイドストリートで家族住宅「アメリカンハウス」に寄った。 その写真があったので、冒頭に掲げた。 来日の大統領専用機は横田基地に着陸するが、ベトナム戦争で東京都のここから複座式戦闘機が出撃していたことは知らなかった。

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