平賀源内『根南志具佐』と瀬川菊之丞2025/03/27 07:05

 源内は戯作でも1763(宝暦13)年、天竺浪人のペンネームで『根南志具佐(ねなしぐさ)』というベストセラーを出している。 とある僧侶が、美貌の女形二代目瀬川菊之丞に惚れて、貢ぐために悪事を働いたため地獄の閻魔大王の所に連れて来られる。 閻魔大王は、男色を汚らわしいと非難するのだが、瀬川菊之丞の絵を見て、一目惚れしてしまい、竜宮城の龍王に菊之丞をさらって来るよう命じる。

 その役を引き受けた河童が、同じ女形の荻野八重桐とともに舟遊びをしている菊之丞のもとに、若い侍の姿で現れる。 菊之丞を川の中に引き込んで、さらっていく手筈だった。 だが河童も菊之丞に一目惚れして、菊之丞もこの若侍に惹かれて、一夜を共にする。 河童が洗いざらい打ち明けると、心も美しい菊之丞は、自分を閻魔大王の所に連れて行け、と言って身を投げようとする。 河童は必死に止め、二人がすったもんだしているのを聞きつけ、荻野八重桐が現れ、二人の真摯な思いに感じて、自分を閻魔大王の所に連れて行け、と言って身を投げる。 河童は消え、一人残された菊之丞は、飛び込んで八重桐を探そうとするが、「危ない」と止められ、呆然として水面を眺めていた。

 この物語は1763(宝暦13)年、荻野八重桐が隅田川で川遊びの最中に、誤って川に落ち、溺死した事件をベースにしている。

『べらぼう』、「瀬川」と平賀源内<小人閑居日記 2025.3.17.>に書いたように、大河ドラマ『べらぼう』で、蔦重の幼馴染の花魁花の井(小芝風花)は、源内の好みを知っていて、男装で現れ「あっちでよければ、瀬川とお呼びくだせえまし」と、源内を喜ばせる。 源内は、花の井の「瀬川」に「ひとさし舞っちゃあくれねえかい」と。 翌朝、花の井は、平賀源内が福内鬼外(ふくうちきがい)の名で書いてくれた『吉原細見』の「序文」を蔦重に渡す。 版元・鱗形屋孫兵衛の「改め」(調査・情報収集・編集)となって、蔦重が仕事をした、この『細見嗚呼御江戸』は、よく売れたのだった。

花の井は、『根南志具佐』を読んでいたわけだ。 鱗形屋の『細見嗚呼御江戸』は、1774(安永3)年の刊行だから、『根南志具佐』がベストセラーになってから11年後のことになる。 杉田玄白、前野良沢、中川淳庵らの『解体新書』の出版も、この年、1774(安永3)年の刊行。

 蔦屋重三郎と「瀬川」、吉原細見『籬の花』<小人閑居日記 2025.3.18.>に書いたように、松葉屋の花の井は、松葉屋伝説の名跡「瀬川」の五代目を、蔦重のために襲名する決心をする。 蔦重の新しい「吉原細見」『籬の花』には、「瀬川」の名が掲載され、伝説の名跡襲名の話題は『吉原細見』の売上を伸ばすことになった。 吉原細見『籬の花』の出版は、1775(安永4)年7月だった。

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