小満んの「中村仲蔵」斧定九郎の工夫 ― 2011/05/07 06:32
さんざんいじめられ、苦労の末、名題に昇進した中村仲蔵、『忠臣蔵』五段目 の斧定九郎の役をふられた。 名題としては不足な役だ。 五段目は昼時で弁 当幕といわれ、客は熱心に見ない。 斧定九郎は夜具縞のどてらにたっつけを はき山岡頭巾という山賊そのままの恰好で、五万三千石の家老斧九太夫の倅と しては、おかしい。 気を取り直して、盗賊でも重役の倅というナリから工夫 してみようと、柳島の妙見さまに日参して、あれこれ考える。
ちょうど満願の日、雨に降られて、本所割下水の蕎麦屋に入った。 「あつ 盛りを二つ」 「蕎麦屋、許せよ」と入って来たのが、三十二、三の上背のあ る浪人者、黒羽二重の紋付の裏を取ったのに五分月代(さかやき)、茶献上の帯、艶消し大小を落とし差しに尻はしょり、破れた黒蛇の目傘を半開きのままポー ンと放り出す、たっぷり濡れた袂(たもと)をしぼっている。 「これだッ」 と思った仲蔵、帯は白献上、刀は朱鞘に替えて、カツラの五分月代は熊の皮に する。
裏方に祝儀を切って、明和3(1766・明暦と言ったような?)年8月(9月?) 11日、真っ白に塗って、青黛(せいたい)をアゴに、福草履(太緒に白紙を巻 いた)を腰に、三階から駆け下りて、手桶の水をかぶって、デデンデンデンの チョボで、出た。 初日の客は、顔を白塗りにした、真っ黒いのが飛び出し、 びっくりして声を呑む。 与市兵衛を殺して、金を奪い、見得をきって、刀を 鞘におさめる。 水が飛び、両袂をしぼる。 金勘定をして「五十両―ッ」、猪 が来る、テンテンテレツクテン、鉄砲の音。 定九郎の仲蔵は、口に含んだ玉 子の殻を割り、真っ赤な血を吐いて、倒れる。 勘平登場、財布の紐を引っ張 って、死骸が起き上がったのを、小刀で紐を切る。 客席は吐く息と、唸り声 がするばかり、「しくじったか」。 やがてジワが来る。
やり損なったと思って、家に帰り、上方へ逃げよう、道具屋を呼べ。 道具 屋が全部ひっくるめて二分だと言っている所へ、親方がお呼びだと使いが来る。 住吉町の伝九郎の所へ行くと、お前が考えたのか、見ていて涙が止まらなかっ たぜ、後々の型になるだろう、当座の小遣いに一包二十五両、この評判で明日 からの市村座は超満員だ、これからもしっかりやってくれよ。 名優中村仲蔵 の誕生だ。
コメント
_ 曲月斎 ― 2011/05/09 23:41
_ 轟亭 ― 2011/05/14 13:48
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