桂文治の「掛取り」2012/12/13 06:30

 昔の商売は帳面だった、通い帳、盆と大晦日はその帳面に書き入れるのに忙 しいから「書入れ時」という。 私(文治)のレベルは高い、六尺棒を持って 倅を追いかけているのとは違う。

 ちょいと、ちょいと、みんな切れちゃったよ、切れないものは包丁、と、か みさん。 暮の吉例だ、俺が言い訳をする、相手の好きなもので。 大家さん は何が好きだ。 狂歌が好き。 へい、いらっしゃい、こっち、こっち。 八 公ん所か。 あたくしも好きなものに凝りましてね、狂歌、明日かというぐら い、貧乏という題でやってみました、「貧乏の棒も次第に長くなり、振りまわさ れぬ年の暮かな」、「貧乏をしても下谷の長者町、上野の鐘のうなるのを聞く」、 「貧乏をすれどこの家(や)に風情あり、質の流れに借金の山」。 お前のは貧 乏ばかりだな、あたしも一つやろう、「貸しはやる」。 ありがとうございます。  おいおい、本当にやりゃあしないよ、狂歌だよ、「貸しはやる、借りはとらるる 世の中に、何とて大家つれなかるらん」。 女房喜べ、狂歌がお役に立ったわい、 へい、ではどうぞ、お気をつけて、よいお年をお迎えになりますように。

 九州(?)屋の旦那、落語好きだ。 あたくしの好きな噺家は、死んじゃっ た柳昇、ちょうちんあんこうみたいな顔をして、何を言っているのかわからな い。 「カラオケ病院」というのがよかった、「おしさしぶりね」とかやってい た。 あとは、八代目正蔵、名跡を海老名家に返して彦六になった、正蔵権(肖 像権)は写真だけじゃない。 盛りのついた山羊みたいな声で、メリハリをつ け「餅にカビが生えたって、バカヤロ、早く食わねえからだ」 ほかに、昔々 亭桃太郎、高座でお茶を飲んで、けなす、「セコイ茶碗だ、田舎の公民館みたい だ」。 大晦日は寄席が休みだから、祝儀を渡したつもりで、待ってやろう。

 酒屋の番頭、歌舞伎が好き。 お掛取り様の、お入ーりーッ。 上使らしく、 四角張って、花道に出るつもりになって、「今日の趣は、余の儀に非ず、謹んで 承れ」 「月々溜まる酒、味噌、醤油、ケチャップ、マヨネーズ、残らず勘定 受け取るよう、主人からの厳命」 一つお願いが、これなる扇面をご覧いただ きたい。 「雪はるる、比良の高嶺の夕まぐれ、花の盛りを過ぎし頃かな」 近 江八景の歌だな。 「心やばせ(矢橋)と商売に、浮御堂やつす甲斐もなく、 膳所はなし城は落ち、堅田に落つる雁(かりがね)の、貴殿に顔を粟津(会わ す)のも、比良の暮雪の雪ならで、消ゆる思いを推量なし、今しばし唐崎の…」  「松で(待って)くれろという謎か…して、その頃は?」 「今年も過ぎて来 年の、あの石山の秋の月」 「九月…下旬か」 「三井寺の鐘を合図に」 「き っと勘定いたすと申すか」 「まず、それまではお掛取り様」 「この家(や) の主、八五郎」 「来春お目に……」 「かかるであろう(ボーーン、と鐘の 音)」

 魚屋の金公、喧嘩が好きだ。 肩脱ぎになって、「薪ざっぽう持って来い!」

 桂文治、7月に平治で演った小佐田定雄作「幽霊の辻」で枝雀の亡霊にとり 憑かれたような時と違い、軽快で楽しそうに演じて、とてもよかった。 師走 の気分になって、国立小劇場を出た。