福沢の実業思想、金儲けより公の利益2012/12/03 06:41

1日、福澤諭吉協会の土曜セミナーで、平野隆慶應義塾大学商学部教授の「福 澤諭吉の実業思想と門下生の企業者活動」を聴いた。 それが昨日書いた、T 君の鉄道事業の公共性と株式会社の配当のための利益追求が相容れないという 意見と通じるものがあった。 それで、落語の話を書く予定を変更して、先に 書いておくことにした。

平野隆教授の専門は、近現代日本の産業史・経営史、特に商工会議所など経 済団体の通商情報活動、チェーンストアなど小売業の発展と消費文化の変容な どの研究をなさっているそうだ。 福澤諭吉研究センター副所長でもある。

福沢は日本近代の経営史においても、重要な人物の一人である。 「会社」 の概念を紹介した最も初めの一つは、『西洋事情 初編』(1866(慶應2)年)で 「商人会社」を解説している。 その特徴は(1)共同出資、(2)財務情報の 公開、(3)資本金の株式への細分化(出資者に配当(「利息」と言っているが)、 利潤多ければ増配)、(4)株式の自由売買。 福沢は紹介だけでなく、自身で 実施した。 福沢屋諭吉の名で出版業を手掛け(慶應義塾大学出版会につなが る)、時事新報を経営した。 オーガナイザーとしては、丸善(丸屋商社)や横 浜正金銀行にかかわった。 「丸屋商社の記」(1869(明治2)年)は、福沢が 書いたと思われるが、元金社中と働(き)社中に分けているのは、所有と経営 の分離の実践である。

 福沢の「会社」の適用範囲と目的。 学校、新聞、病院など非営利的組織に も「会社」概念を適用している。 「芝新銭座慶應義塾之記」(慶應4年)に は、「慶應義塾会社」とあり、「入社帳」や「社中」もここから来ている。

 『尚商立国論』(1890(明治23)年)「尚」=尊ぶ、ビジネス全般を尊重し て国を立てる論。 商(ビジネス)を卑しむ社会的風潮から、有為の人材がビ ジネスに入らない。 金銭目的(お金儲け・利益)の経営を批判して、会社の 目的は公益だとする。 官尊民卑打破の必要性を主張した。 『実業論』(1893 (明治26)年)では、実業の発展の遅れを憂慮し、新時代の実業の担い手とし て「士流学者」を考える。 「士流学者」とは、福沢の実業思想のキーワード で、いわば知的エリート(知識人)、士(さむらい)の精神つまり公を思う心(公 益心)と、新しい教育を受けた知識の両方を併せ持つ。

 重ねて言えば、会社にとって、営利は手段であって目的ではない、追求すべ き目的は、公の利益である、というのが福沢の実業思想の核心だと、平野隆教 授は前半を結論した。