胃癌の内視鏡診断と治療2012/12/19 06:34

 比企能樹さんの講演の続きである。 新しい消化器の内視鏡は、まず【診断】 の分野で、1952年の胃カメラ(宇治・林田・城所)から、1958年のハーショ ビッツ(米)のファイバースコープへ、苦しい内視鏡から、負担の少ない内視 鏡へと進んで来た。 【治療】分野では、1967年から内視鏡による治療が始ま り、レーザー治療(止血)、粘膜切除術(ESD)、開腹しない手術(腹腔鏡手 術)が行われるようになった。

 胃癌を例に取ると、内視鏡で覗いて胃癌を発見する。 比企さんが北里大学 で扱った981例の内、10年生存率は早期胃癌の場合90%だが、進行胃癌の場 合20%ほどになる。 早期に発見して、治療することが大切だ。 昭和50年 頃は、1cmぐらいの癌でも、胃の2/3を切除する開腹手術が必須だった。 そ れが日本の誇るべき内視鏡の技術によって、スコープの先端に道具をつけてす る内視鏡的切除術が可能になった。 胃内の出血を、内視鏡を使ってレーザー で治療する方法も行われている。 さらに、大きく開腹する負担を回避して、 全身麻酔で腹にいくつかの小さな穴を開け、内視鏡を入れて手術する腹腔鏡手 術が開発された。 傷口は小さく、患者は翌日には立ち上がることが出来、一 週間前後で退院している。 2010年の北里大学外科桜本信一氏のデータでは、 胃癌治療422例の内、内視鏡的切除が250例59.2%、腹腔鏡手術が96例 22.8%、 開腹手術が 76例 18.0%となっているそうだ。

 そこで、比企さんは早期発見のために、機器と技術の進歩で非常に楽になっ た胃と直腸の内視鏡検査を、毎年受けることを勧める(一歩譲って、胃と直腸 を一年毎に交互にでも)。 この日記を読んで、検査を受け、寿命を延ばした 人が一人でも二人でも出れば、閑居老人以て瞑すべし。

 インターネットで検索したら、比企能樹さん(北里大学医学部外科)の論文 が出て来た。 「胃癌治療の多様性―とくに早期胃癌治療の変遷について―」 (『日本消化器外科学会誌』31(3):803~812,1998年) くわしくは、そ ちらを参照願いたい。 http://journal.jsgs.or.jp/pdf/031030803.pdf

 その論文の最後で、比企さんは、恩師島田信勝教授の「癌治療の本旨は、単 に癌病巣を剔除することでなく、癌に罹患している患者を癌から解放して生命 の維持をはかることであって、メスはその目的を達成する一手段として使われても のである」という言葉を引き、患者のQOL(生活の質)を追求する今日の医療 に合致するよう、早期胃癌の治療は正確な診断により、正当な適応を模索して、 より侵襲の少ない(患者の負担やダメージの少ない)方法で行われなければな らない、と述べている。