新真打、金原亭馬玉の「転宅」 ― 2015/04/03 06:36
27日の鈴本、仲入後のここで最初に書いた金原亭馬玉の真打昇進襲名披露口 上があり、すず風にゃん子・金魚の漫才があって、落語協会会長柳亭市馬の登 場となった。 市馬は季節の噺「長屋の花見」をやり、つづいて権太楼が「代 書屋」をやって、大受けだった。 ともに、15分ぐらいの高座だったが、流石 脂の乗っている実力をはっきりと示した。 権太楼のマクラは、当日記、昨年 11月30日の「権太楼「錦の袈裟」のマクラ」の後半と同じだった。
林家正楽の紙切り、「春の野原を走っている玉をくわえた若い馬」、客席から お題頂戴の「弁天様」「花見酒」「一年生」があって、いよいよトリの金原亭馬 玉である。 「待ってました」の声に、こんなに待っていただいたのは初めて。 いろいろ考えて、今日は泥棒の噺にした。 落語の泥棒は、間抜けと相場が決 っている。 浅草仁王門の曲者の小咄で、パラパラという拍手ありがとうござ います、親分中の首尾は? シィーッ、鯉が高いの小咄をやって、「転宅」に入 った。
黒板塀のお妾さんの家、五十円渡して、今日は帰りますと旦那、さっきの金 は大事にしなよ、と出るのを女が送る。 あんないい女に、あの爺イ、金の力 だなと、裏から入った。 そのままの食卓の、燗冷ましだけどいい酒だ、赤身 はトロだ、白身はテエだよ、とろろは精がつく、まぐろが入っているよ、ズル ズル。 イモの煮っころがしだ、うめえや。 ちょいと、お前さん、なんなの。 (イモを頬張っていて)ウンウン。 静かにしろ、おら泥棒だ、騒ぐと二尺八 寸の段平物を振り回すぞ。 よーよー、音羽屋。 段平物って、腰に何も差し てないじゃない。 今日は、忘れた。 お前さん、旦那の呼んだ噺家か、幇間 なんだろう、驚いたところへ、カッポレかなんか踊ろうってんだろう、カッポ レを踊れ、このカッポレ泥棒。 ここは野中の一軒家じゃないよ、お前さん、 やりそこなってるよ。 元をただせば、私もコレ(指を曲げる)だよ。 姐さ んも泥棒か、驚かないから、変だと思った。
実は、相談があるんだよ。 旦那は、面白くない人でね、さっき手切れの半 分もらった。 私は世帯を持ちたい、思い描く人はね、男は肚(はら)さえ決 まっていりゃあ、役者みたいないい男じゃなくていい。 そんな男はいるのか? 私の目の前にいるじゃないか。 えッ。 おかみさん、いるんだろうね。 独 り者かい、でも色がほうぼうにいるんだろうね。 色なんていない、無色透明 だ。 一緒に苦労しておくれじゃないかい。 ハイ!
三々九度の真似事だよ。 白魚を五本ならべたようなきれいな指だな、姐さ ん名前は何てんだ? 俺、親分は鼠小僧泥之介、一の子分で、イタチ小僧の最 後兵衛。 高橋お伝を知ってるかい。 お伝は、私のお祖母ちゃん。 高橋お 伝の孫、名門の出なんだねえ。 名前は半ぺん、本当は菊っていうの。 お菊 さん。 呼び捨てにしておくれ。 いくぜ、おい、お菊。 何だい、お前さん。 今晩、泊っていくよ。 だめだよ、二階に柔の先生と、剣術の先生が、用心棒 でいるんだ、今、風呂に行っている。 明日の昼過ぎに、合図の三味線を弾く から。 お小遣い、持ってるかい、いい財布ね、こんなに持ってるの、どこで やったの。 このお札は、こっちで預かっておく。 浮気なんかしちゃあ、い やだよ。 女猫一匹、膝の上に乗せないよ。 本当かい、嘘つきは泥棒の始ま りっていうよ、もう泥棒か。
明くる日、早く出て、行く。 あの女、27、8、いや32、3、ちょいと化粧 が濃かったな37、8、着物が地味だったから42、3、暗がりで52、3かも…、 でも、あんないい女なんだから、年なんか関係ない。 もうお天道様も高くな った、あそこに煙草屋がある。 前のお菊の家、閉っているけど。 お菊とい うところをみると、お菊さんの身寄りの方で? まあ、そんなところだ。 ゆ うべのあの話を、ご存知ない? 婆さん、お茶を淹れて、初めから話して、笑 い合おう。 これこれこういう訳で…、間抜けな泥棒で、夫婦約束をしたって んですよ、そんなバカなことが世の中にあるわけはない。 お菊さん、早速の 機転で、二階に柔の先生と、剣術の先生が、用心棒でいるって言ったそうで、 前の家をごらんなさい、平屋ですよ、二階なんてありませんよ。 昼過ぎ時分 に、その馬鹿が来るってんで、ここら中の節穴っていう節穴、目で埋まってい ます。 ゲジゲジ眉で、ヒゲ面の男だそうで、来たら、指差して、笑ってやり ましょう。 それで、お菊はどうした? ゆんべの内に、お店から若い衆が来 て、越しました。 はい、元は義太夫の師匠だったそうで…。 道理で、うま く語りやがった。
幕が下りると、幕の内から賑やかな三本締めが聞こえた。
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