春風亭一之輔の「堀之内」2017/05/06 07:14

 私の方も、騒々しいところで…。 ひねくれもんでして、この会のように題 を出すと、何か、やりたくなくなる。 十人十色と申しまして、そそっかしい 人がいる、と入ることにして…。 やんの、やんなっちゃったな。 この噺、 林家鉄平師匠に習った、三平師匠の弟子で、天真爛漫な人だった。 お家へ伺 ったら、飼っているカナリアが三羽、逃げて行った。 それで泣きそうになり ながら、稽古をつけてもらった。

 よく忘れ物をする。 帯を忘れる。 志ん陽兄さん(太目)なら、いつも締 めてないようだけれど。 足袋を忘れる。 右だけ二つあったりする。 片方、 裏っ返しにして履く。 これだけ距離があれば、わからない、この客層なら。  長崎へ足袋を忘れて、デパートに買いに行ってもらった。 ない、白い靴下な らありますって言う。 ルーズソックスで、事足りた。 三足、千円、三足渡 された。  タクシー。 雷で電車が止まった五反田駅、運ちゃん、テンションが上がっ てる。 特需ですねって、私と弟子が乗ったら、自分のリクライニングを倒し た。

 落語には、神に近い、そそっかしい人が出る。 お前さん、上がんなよ。 泣 きそうでよ、脚が片方短くなった。 下駄と草履じゃないか。 そうか、だけ ど、余計ひどくなった。 草履脱いだからだよ。 明日、そそっかしいのを直 してもらいに、堀之内のお祖師様へお参りに行く。 寝るから、蒲団敷いてく れ。 まだ二時だけど。 もう、食べられないよ。 寝ちゃった、寝言言って る。 お前さん、朝だよ。 花魁、顔を洗うから、止めんな。 水がない。 箪 笥の抽斗だよ。 洗面器に、水がたまらない。 それザル。 顔がひりひりす る。 おつけで、顔洗ったんだ。 手拭と思ったら猫で、引っかかれて、傷が 滲みる。 風呂敷に弁当包んで、出かける。

 堀之内は、どっちでしょう。 家で、聞くんじゃないよ。 お題目を唱えて 行こう。 ナン、ナン、ミョウ、ホーレン、ミョウ。 その呪文、やめて下さ い、気持悪い。 ナン、ナン、ホーエー。 あれ、浅草の観音様だ。 堀之内 は、どっちで、神保町から来た。 反対だ。 帯が落ちてる。 帯善かな。 ワ ーーッ、硬いな。 総武線、電車のレールだ。 家へ帰って来ちゃった。

 私はどこに行くんでしょう。 ナン、ナン、ミョウ、ヨーヨー。 堀之内の お祖師様だ。 私は誰ですか。 大工の八っつあん、A型、みずがめ座、そこ に縫いつけてある。 ヨーヨー。 鍋屋横丁を左だ。 自分を信じて行けばい い。 堀之内のお祖師様は? ここですよ。 意外と手狭ですね。 うちは煙 草屋だけど。

 そそっかしいのを直して下さい。 あんたも、同じお願いですか。 ナン、 ナン、ミョウ、みんな遠巻きにして、俺を見ているぞ。 お賽銭を上げよう、 お財布を投げちゃった。 一年分だ。 手合わせて、世界平和、これでいいよ。  弁当にしよう、カカアの腰巻で、枕が包んである。 今晩はいいよって、こと か。

 ただいま、東京中歩いたよ。 何やってんだ、弁当、枕とお前の腰巻だった。  ハハハ、モウ、お宅は隣よ。

 武ちゃんじゃなくて、金ちゃん、お湯へ連れて行ってよ。 武、金、一つに 統一してくれ。 後ろに回れ、負ぶうから。 私かよ、お向うの久蔵だよ。 そ こで脱いじゃあ駄目だ、鏡があるけど、ウチは床屋、湯屋は隣だ。 うちの娘 に何すんだ、せっかく着せた着物を脱がせて。 金、前へ回れ、いつ般若の彫 り物なんかしたんだ。 何を! 鳶頭でしたか、うちの倅と間違えた。 俺が いるぞ、奇遇だ。 挨拶しよう、ケツが痒いな、世知辛い世の中で。 どうし ても、俺がいる。 お父っつあんと、田中さんで、よっこらしょっと、お湯屋 の鏡、持って行っちゃった。

 春風亭一之輔、冷めてとぼけたくすぐりの連続に、爆笑していて、一期一会 の傑作「堀之内」を、とても伝えきれない。 最後は意味不明になってしまっ た。 小三治が「久々の本物」と評したのは、これだったのか。 楽しみ、楽 しみ。

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