〔福沢と商売〕5 鄧小平記者会見と福沢『丸屋商社之記』〔昔、書いた福沢33〕2019/03/14 07:03

         等々力短信 130 1978(昭和53).11.5.

 先日の鄧小平副首相の記者会見は大変面白かった。 中国はもっと教条主義 で、画一的な答が出るのかと思ったら、柔軟で率直な発言で感心した。 中国 は現在遅れているが、今世紀末にはその時の先進国の水準に追いつく目標を立 てた。 だから進んだ日本の科学技術を学びたいと、はっきりいう。

 明治2(1869)年、福沢諭吉は丸屋商社(現在の丸善)設立の趣意をのべた 「丸屋商社之記」の中で、日本は鎖国の睡眠中に、西洋の諸国に水をあけられ た。 外国人が日本に来るのは、貿易がしたいからである。 今貿易の権を外 人に握られては国の独立が危い、商売こそ「至重至大の急務」だといった。

 福沢はやがて『文明論之概略』(明治9(1876)年)で、まず文明の精神を取 り入れて人心を改革し、ついには有形の文明に至るべし、とした。 鄧氏が外 形の科学技術に終始したのは、精神に自信があるからなのだろうか。