柳家小満んの「樟脳玉」後半2019/06/05 15:31

 それから銭儲けの問題だ。 お前に白羽の矢を立てた。 長太郎玉だ、火を 点けても熱くない。 こいつを使って、一芝居打つんだ。 今夜、長屋の屋根 に二人で登って、お題目の頃に、針金に糸をつけて、明り取りから下ろして、 振り回す。 スーーッと、引き上げて、明くる朝、お前が行って、悔やみを言 う。 朝晩、お題目を唱えていて、長屋の人も皆誉めている、おかみさんも極 楽往生したでしょう、と。 実はまだ極楽へ行っていないと言ったら、しめた ものだ。 ゆんべ、お縫の魂、火の玉が出た。 それは、何かに気が残ってい るんだ。 着物などは全部、お寺に納めたんでしょうな。 まだ、あります。  それに気が残っているんだ。 ご本山がいい、俺が明日仕事で甲州へ行くから、 それと気が残っているお金もあれば預かって、身延山に納めましょう、と言う。  着物と金をもらってきて、二つに分けよう。 お題目の刻限はお前がくわしい。

 こんばんは、兄貴。 わかったよ、一軒おいた手前から登るんだ。 手、出 せ。 源兵衛の引き窓だ。 下駄、足駄で登って来たのか。 火、点けな。 南 無妙法蓮華経! 南無妙法蓮華経!

お早うございます、源兵衛さん。 八っつあんですか、どうぞお上がりを。  ゆんべ、何かあったんですか。 今頃は十万億土とかに行っているとばかり思 っていたんですが、何かに気が残っていたんでしょうか、家内の魂が入って参 りました。 五万億土から友達を連れて来たんだ。 残っている物は、お寺に 納めたんですが、着物がまだある。 俺が明日仕事で甲州へ行くから、身延山 に納めてくるよ。 風呂敷持って来た。 ちょうど、お縫の紋は井筒、家は橘 で、井桁の中に橘で、お祖師様のお仕着せみたいになっている。 お祖師様も、 お喜びだろう。 思い出の品ばかりで。 この博多の帯は、観音様にお参りに 行った仲見世で、私がきれいな十六、七の女の子を見つめてた。 それをお縫 がとがめたんで、お前よりきれいな人はいないと信じていると、背中をさすっ た。 落した涙が一つ、博多の帯のしみになっている。 白薩摩も、涙の種で。  畳紙(たとう)のまんま、乗せて、細引きで結わえて、腰に乗っちゃえば、担 げますから。

 おーい、兄貴。 荷が多いから、上につかえている。 上出来だ。 金は?  金、言い忘れた。 お足は、足がつかねえ。 もう一晩やって、また行って来 い。 慣れているから、樟脳玉は…。

 お早うございます。 八っつあん、甲州は? 天気がいいから、眠くなるん で、明日。 ゆんべは? 出たんですよ。 他に、気の残るもの、お足はない か? お縫は、お金には執着がない、気が残ってない。 肝心なものが一つあ った、雛人形。 人形は、いいでしょう。 秀月のだとか言って、樟脳を入れ て、大事にしていました。 家内の気は、やっぱり人形でしたよ。 蓋を取っ たら、魂の匂いがしました。

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