本井英句集『守る』を読む<等々力短信 第1174号 2023(令和5).12.25.>12/18発信2023/12/18 06:59

 本井英先生の第六句集『守(モ)る』(ふらんす堂)を読んだ。 句集名は、高浜虚子の昭和14年の句<祖を守り俳諧を守り守武忌>に由来し、鼻祖荒木田守武以来の俳諧を「守らん」とする「守旧派」虚子に倣っての思い、その心情を昨今さらに深めているからだという。 平成27年から8年間の306句が収められているが、平成29年晩秋に大分進行した「咽頭癌」が発覚してからの試練の時期でもあった。

 去年今年身に病変を抱きながら/根治とは信ずることば花の下/病ひには触れず日焼を褒めくれし/生きてゐるだけで御(オン)の字花野ゆく

 英先生は、「歳時記」に季題として登場する鳥も獣も蟲も魚も、さらには花も木も草も、われわれ人間と同格に生れ、生き、死んで行く。 その「仲間たち」を、よく見、聞き、知り、「あはれ」と感じ、讃美することが、「花鳥諷詠」の立場だという。

 鶯の遠きはお俠(キャン)近きは艶(エン)/営林署の冷蔵庫より山鯨/芋虫の疣足もんぺ穿きにして/吻(フン)の黄の美しきほど佳き秋刀魚/梅林やわが影坊を連れまはし/軽トラの徐行ゆらゆら杉落葉/岩煙草あつかんべえの若葉垂れ

 知らない言葉、読めない字もあって、「歳時記」や辞書、ネットの検索などする。

 芍薬の蕾に案の如く蟻/どんよりと新海苔黒し浪のむた/岬宮に位階とてあり冬椿/うはずりし鱵の見ゆる波間かな/裏を伝ふ蟻の影あり黄蜀葵/犬筥の犬の器量に佳きわろき/忍冬の蕾ぞ袋角めける/花落ちて山梔子はやも五稜なす/鴨は鴨鵜は鵜でくらし頭首工(トウシュコウ)/箱釣の箱立てかけてありにけり/ヒバカリのつるりと小さき幼顔/なつかしの蚊帳吊草の茎に稜(カド)/鴫立庵 この庵や芭蕉巻葉もあらまほし/駐車場に月見草咲くオーベルジュ/海坂の裏側春の島いくつ/竹馬とも筒井筒とも月の友/餌合子(エゴウシ)の鳴ればたちまち鷹もどる/あとがき 林鐘

 「案の如く」考えていたように/「むた」と共に/「とて」だって/「鱵」サヨリ/「黄蜀葵」トロロアオイ/「犬筥」イヌバコ、狛犬、女の子の幸福と健やかな成長を願う雛道具/「忍冬」スイカズラ/「山梔子」クチナシ/「頭首工」水門/「箱釣」金魚掬い/「ヒバカリ」蛇、日計の名は咬まれればその日ばかりで死ぬ意だが、実際は無毒/「稜」とがったところ/「芭蕉巻葉」新葉を巻いているバショウを、玉巻く芭蕉と美化していう「あらまほし」そうありたい/「オーベルジュ」宿泊施設を備えたレストラン/「海坂」海神の国と人の国を隔てるという境界/「筒井筒」幼なじみ「月の友」月見/「餌合子」鷹の餌を入れる蓋つきの椀/「林鐘」リンショウ、陰暦六月の異称。

 終わりに、身に沁みた一句。 <老といふ敵は手強し一茶の忌>

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