柳家小満んの「芝浜」後半2023/12/29 07:06

 ちょいと、お前さん、起きとくれよ。 水をくれ。 水なら、枕元にある。 それで、何だい。 目覚めたら、仕度して河岸へ、浜、雑魚場へ行っとくれ。 お得意回りに。 とぼけるな、一件物を渡したろ、お前と数えたろう。 何、言ってんだい、お前さん、頭、おかしくなったんじゃないのか。 泣くなよ。 俺が河岸に行ってないってのか。 夢を見たんだろう、お酒ばかり飲んでいるから、そういうことになるんだよ。 お湯の帰りに、寅さんや金さんたち大勢連れて来て、一人で騒いで、寝たんだよ。 いつ、湯に行ったんだ。 あれは夢で、あそこに皿小鉢がある、飲み食いは本当かい。 駄目だな、俺は、一生分飲んだと思えば、未練はない。 だけど、なあ。 飯台は、箍がゆるんでるだろう。 水を張っといた。 包丁はぴかぴか、草鞋は出てます。 夢でもそういう時があった。 しっかり稼いでおくれよ。

 もともと、腕のいい棒手振りで、包丁は人がたかる腕、離れたお得意も戻り、新しい客も増える。 懸命に働いて、夕市も鰯を売ってくれるようになった。

 足掛け三年目の大晦日。 どこにも借金がない。 おっかあ、手拭を、湯へ行ってくる。 畳を取り替えてくれたのか。 九尺二間の六畳間が、こんなにいい匂いするんか、藺草ってのか。 昔っからよく言うな、畳の新しいのと、かかあの……かかあは古い方がいい。 福茶だよ。 酸っぺえ梅干と昆布、よろこんぶとかいう。 三年前はぞっとしたな、八方ふさがり、借金取が来るんで、俺が風呂敷かぶって戸棚に隠れ、伯父さんの所に借りに行ってるって、お前が言い訳して。 米屋の番頭が、矢立を忘れて戻って来て、風呂敷が震えているから、お大事にって、言った。 人間は、怠けてちゃあ駄目だな、辛抱が肝心だ。

 じゃあね、見てもらいたい、数えてもらいたいものがある。 白っちゃけて、色が抜けている、皮財布。 へそくりか? へそくりみたいなもの、びた銭、お台場銀三十二両。 そういう夢を見たことがある。 お前、泣いて言ったじゃないか、夢だって。

 大家さんの所へ持って行ったら、お上に届けてやろう、夢にしておけって言われて、夢になった。 丸一年経って、大家さんと一緒に呼び出され、お奉行さんへ行ったら、海からの授かりものだと、下げ渡された。 まさかとは思ったが、鬼になって黙っていた。 稼ぐに追いつく貧乏なしだ。 堪忍して下さい。 おっかあ、手を上げてくれ。 俺の方で言わなきゃあならないけれど、かかあと思わない、親だ、かかあ大明神、チチンプイプイだ。

 おせちが出来ているよ。 一杯、今夜は飲んでくれるかい。 生姜の茶漬けにしてくれ。 お酒は? よそう、また夢になるといけねえ。