桃月庵白酒の「死神」前半(25日分)2023/12/26 07:19

 白酒はピンクの着物、グレイの羽織。 国立劇場の建て替え、先に取り壊さなければならないものがあると思うんですが…。 国立劇場小劇場、特別感があった、横に広く、お偉いさんが覗く小部屋があって、しゃべりにくい。 今日も、会場がこちらなのに、結局半蔵門線に乗っちゃった。 建て替えの入札がまだ決まってないとか、跡地で万博やるんだろうか。

 ウチの師匠が(人間)国宝になっちゃった、と電話が来た。 認定式というのが京都であって、交通費は手銭(てせん)というので、いやいや行った、自由席で。 そこまで、ケチることはない。 他の方は大勢で行くのに、一人で行って、着物も畳んだという、誰が交通費払って付き添うか。 電話が国宝にもかかる、寄席の代演をお願いします、と。 弟子は人間国宝になるという目標が使えなくなった、殺さなきゃあならない。 先の見えなくなる、噺家人生で。

 道具は大切、イチロウは大切にしていたが、大谷翔平はWBCで投げたりしていた。 扇子は、噺家の魂という。 扇子が鞄に入ってなかった。 割り箸があるよ。 何にでも、縋りつきたくなる、八百万の神。 嫌われる神に、貧乏神、死神。 サイコロ、うまくいかない、死んじまおうかな。 でも、楽(らく)して死にたい、老衰が一番だ、小さんはうまくやったよ、米朝も、国宝はみんなそうか、すると雲助も。 身投げして死ぬってのは、どうだ。

 ちょっと、死んじゃ駄目だ、いいことだってある。 何だ、お前は? 死神だ。 だけど、血色のいい死神なんかいるのか。 落語の聞き過ぎだ。 俺は、うながし神、お前の当番だ。 俺と一緒に生きよう。 金を稼がしてやろう。 死んだ気になって、働け、医者をやれ。 患っている病人を直せば、金になる。 病人の足元に、死神が座っていれば、助かる。 呪文を教えて、死神が見えるようにしてやる。 早く、言え。 特別だ。 三つの約束がある。 枕元に座っている死神には、手をつけるな。 呪文は、誰にも教えるな。 あと、一つ、早寝早起き。 「アジャラカモクレン、研究会、もう国立劇場ではありません」と言って、手をポンポンと叩くんじゃ。 俺の言う通りにするんだぞ。  「アジャラカモクレン、研究会、もう国立劇場ではありません」ポンポン。 おい、死神! いなくなったぞ、そういうことか。

桃月庵白酒の「死神」後半2023/12/26 07:22

 蒲鉾の板に「医者」と書いて出した。 近所に住む占いの先生に、辰巳の方角で、一番目の医者に診せれば治ると言われたのが来た。 足元に死神がいれば、助かるんだが。 次の間に、下がっていてください。 「アジャラカモクレン、研究会、もう国立劇場ではありません」ポンポン。 死神、いなくなる。 旦那が起きて、何か食べ物を、と。 有難うございます、お薬とかは? そうね、家に取りに来てください。 大根の葉っぱを刻んで渡す。 どのように飲めば、よろしいので。 そのままでも、煎じてもいい。 十両ございます。

 その人が縁者を紹介して、また十両、手に入る。 二十両、みんな飲んじゃった。 評判になって、いろいろなのが来る。 五十両出します。 七十両出します。 セリで、百両。 飲み切れないと思ったが、みんな飲んじゃった。

 先生、一日一軒と決めている。 越後屋、大層な屋敷、時間外は割増で。 死神が枕元に座っている。 寿命が来ている、駄目だ。 三月長らえてくれれば、五百両、一息で出せる。 もっと出せる、千両。 ただ枕元なので、気の利いた力のある若い者を四人、用意してくれ。 目くばせしたら、蒲団をひっくり返すんだ。 一度きりだ、病は気からというから。 カゴメカゴメかなんかして、遊びましょう。 死神が驚いた。 看病しているのに、おかしい。 カゴメカゴメ……後ろの正面、だーーれ!

 旦那が咳をした。 起きたかったら、起きてもよろしいんでしょうか。 顔を出すたびに、五十両貰っていくことにした。

 馬鹿、馬鹿、約束をやぶりやがったな。 枕元は、駄目だ。 あれはウチの弟弟子だ、真打前に二つ降格だ。 ちょいと、つきあってもらうよ。 何だここは、暗いじゃないか。 これらの蝋燭が、人の寿命だ。 本当だ、ずいぶん勢いよく燃えているのが越後屋で、消えそうなのが、お前だ。 死ぬよ、取っ代えちゃったんだよ。 しょうがない、ご愁傷さん、もう無理だ。 死んだら、閻魔様に言うぞ。 最後だな、お前は。 何とかならないか? この蝋燭に、火を移せば、命が延びる。 点いたよ、点いたよ! 危ねえ、火傷する! アッチ、アッチッチ、アッ…。(蝋燭を持った手を横に振ってしまった。) ドタリ。