『清冽』と『子規の宇宙』 ― 2011/08/04 05:23
『暮しの手帖』53 (8-9月) 号「私の読んだ本」の、続き二冊。
後藤正治 著『清冽 詩人茨木のり子の肖像』(中央公論新社)。 茨木のり子、 ルビで「いばらぎ」と読むと知る。 書店勤務・菊地真由美さん(46歳)は、こ の初めての評伝で、読む者を叱咤し、励まし、癒す、あの茨木のり子の詩が、 品のある姿、凛とした佇まい、潔(いさぎよ)い姿勢、丁寧な日常、豊かな思想 …想像以上に素敵な女性から生まれたことを知る。 また、夫との日々を追想 する詩は、密かにクラフトボックスにまとめ、照れくさいから、死後出版され ることを望んだという一面もあった。 「自分の感受性くらい/自分で守れ/ ばかものよ」は、世相批判としての他者でなく、自身に向けて書いたものだっ た。 自分は駄目な奴だから、自分を刺激し鼓舞する意味で、詩を書く。 人 を励ますなんておこがましいという、謙虚で、素直な人であった。 菊地さん は、背筋を伸ばし、丁寧に日常を過ごさなくてはと、思う。 同時に、言葉を 素直に、丁寧にならべたくなる、と。
長谷川櫂 著『子規の宇宙』(角川選書)。 主婦・下井由紀子さん(59歳)は、 NHKのドラマ『坂の上の雲』の子規の生き様に感動して、もっと子規につい て知りたいと、この本を手に取った。 そして書き出しに引き込まれる「今か ら百年前、正岡子規という人がいた。もっと正確にいうなら。百年前にその人 は亡くなった。わずか三十五歳の若さで。家族は母親とたった一人の妹。妻も 子どももなかったが、大勢の活気ある友人たちがいた」 下井さんは、妹律にも興味を持ち、その人生は「家の犠牲になった」のでは なく、律自身が選び取った人生であったに違いない、と考える。 子規没後、 学校に通い、生計を立てる技術を身につけていくのを、近代女性の走りだろう と、思う。
私は、ドラマ『坂の上の雲』の第2回「青雲」を思い出した。 秋山真之(本 木雅弘)が『学問のすゝめ』を読んで「自主独立、一身独立」と言ったのに対し、 律(菅野美穂)が「私も一身独立しようと思うたんじゃ」と言うところ、を。
最近のコメント