扇遊の「芝浜」後半 ― 2012/01/03 04:36
魚勝の料簡が、すっかり変わった。 お酒というものは、誰かが止めてくれ るのを待っているものだ、私(扇遊)が言うのだから間違いない。 とことんま で落ちると、何かのきっかけで、自分が変わる。 我精に(骨身を惜しまずに) 働く、もともと腕のいい魚屋だから、お得意も戻る。 やがて表通りに小さな 店を出し、若い衆の二、三人も使うようになる。
三年たった大晦日。 おかみさんは、若い衆をみんな湯に行かせる。 湯か ら帰った勝五郎、家の中が明るくなったのに気付く。 畳替えしたんか、いい な、畳の匂いがたまらねえな、昔っからよく言うな、畳の新しいのと、かかあ の……かかあは古い方がいい。
もう借金取は来ないし、お支払は全部済んでいるよ。 こんな大晦日は、初 めてだ。 何年前か、俺が押し入れに隠れていて、出た途端に、米屋の番頭が 忘れ物をして戻ってきやがった。 お前が、風呂敷を頭からかぶせた。 米屋 は、寒いですね、風呂敷も震えてますよって、言いやがった。
雪が降ってきやがったのか、さらさら音がする。 笹が触れ合っているんだ よ。 そうか、湯の帰ぇり、星が降るようだったっけ。 酒の飲める奴は、い いだろうな。 お前さんに、見てもらいたいもの、聞いてもらいたいことがあ る。
大家さんと相談して、夢ということにした皮の財布の四十二両、前からお下 げ渡しになっていた。 今日言おうか、明日言おうかと思って…、すまなかっ たねえ、私はこれで気が済みました。 ぶつなり、蹴るなり、気が済むように して下さい。
手を上げてくれよ、いいから手を上げてくれよ、おっかあお前ぇはえれえな あ、銭を使っちまって、お上に知れりゃあ、よくて遠島、お情けで佃の寄場送 りだ。 墨入れられて、今頃はコモ被って震えてなけりゃあならなかった。
怒られたあと、機嫌が直るように、お酒の用意がしてあるんだよ。 私が飲 んでおくれってんだから、いいじゃないか。 好きなものも、こしらえてある。 そうですか、本当に飲んでもいいのか、俺じゃないよ、お前が飲めと言ったん だよ、ありがてえな。 いいや、よそう、また夢になるといけねえ。
最近のコメント