「雑煮」と「両細(りょうほそ)」の箸2012/01/06 04:17

 芥川(龍之介)家の「雑煮」は、具が野菜だけの質素な仕立てが受け継がれて きており、一時鶏肉を入れたが、すぐにやめた。 芥川比呂志の随筆にあると、 元日の「天声人語」で読んだ。

 わが家の雑煮は、澄まし汁で、焼いた餅と、鶏肉、小松菜、鳴門を入れる。  餅は近年、美味しいので、父の出た庄内地方の、余目というところの丸餅を使 っている。 汁は、濃尾平野を境にして、関西は味噌汁、中部・関東以北は澄 まし汁に分けられるそうだ。 加える具も、鴨の肉、海老、蒲鉾、柚子を使っ たり、京阪地方では大根、人参、八ッ頭などの野菜や焼き豆腐を入れたりする らしい。

 雑誌『サライ』の一月号に、伝承料理研究家の奥村彪生(あやお・74歳)さん の「正月料理の主役は雑煮」というインタビューがある。 高価なおせち料理 が流行しているが、あくまでも脇役だそうだ。 新年を寿ぐ雑煮を煮るために は新しい火を準備する。 この風習は、京都の八坂神社にいまも残り、大晦日 の夜に「をけら火」をもらいに行って、自分の家のかまどや囲炉裏に移す。

 正月には歳神様(としがみさま)をお迎えするため、その地方の産物をお供え する。 それを下げて、餅と一緒にひとつの鍋で煮るのが「雑煮」なのだそう だ。

 正月、「雑煮」やおせち料理を食べるのに、両端が細くなっている箸の「両細 (りょうほそ)」を使う。 なぜ、両端がほそくなっているか、ご存知だろうか(私 は七十年も、子供の頃から父が箸袋に名前を筆で書いた、今は自分で書く柳箸 を使いながら、知らなかった)。 一方で人が食べ、もう一方は神が食べるから なのだそうだ。 この箸の形そのものが、神人共食(しんじんきょうしょく)を 意味している。 要するに、歳神様が食べる餅を、一緒にいただいて、力をも らい、生命を更新させる神事だというわけだ。

 その神聖な「雑煮」を煮る火を汚さないようにと、火を使わないで済むおせ ち料理が生まれた。 決して主婦を休ませるためではないと、奥村彪生さんは (笑)っている。