歌代 朔・作『シーラカンスとぼくらの冒険』2012/01/28 04:30

 児童文学の本を読んだのには、こういう事情があった。 その小学校の同級 生と、ずっと年賀状のやりとりをしている。 昭和29(1954)年の卒業以来58 年、会ったのは20代の一度だけと記憶しているが、お互いや家族の様子は、 年賀状の範囲で承知していた。 今年の年賀状の添え書きに「昨年の秋に娘が 出版デビューいたしました。単なる親バカより」と、本と出版社の名が書いて あった。

 歌代 朔・作、町田尚子・絵『シーラカンスとぼくらの冒険』(あかね書房) を読んだ。 物語の奇想天外な展開に引きずられて、一気に読み進み、結末で、 爽やかな気分にさせてもらった。 今の子供たちや若い人に、希望を感じるこ とが出来た。 一読をすすめたい。

中学受験をひかえる夏休み、マコト少年が塾に通う地下鉄で、シーラカンス に出会う。 ベンチの隣に座っていたと思ったら、同じ電車に乗り込んできて、 マコトの隣に座ったのだ。 幼なじみのアキラに話すと、幽霊や怪談好きの彼 は強い興味を示し、二人の探求が始まる。 それはヒレを使って移動する陸シ ーラカンスで、地下鉄ができる前から住みついており、駅長に教わったプレー トには、ずいぶん古い年号(あとで1934年と判る)と「陸シイラカンス保護区」 という文字が刻まれていた。 先住権があって、地下鉄は自由に乗り放題だけ れど、めったに乗ろうとしないという。

 マコトとアキラは、陸シーラカンスがしゃべることを知り、親しくなる。 人 間のしゃべっている言葉は、もともと、5億年前から生きている彼らの陸シー ラカンス語を、人間が覚えたものだから…。 ふたりは密かに、アキラが「師 匠」と呼ぶ、古代から生きてきたらしい陸シーラカンスを連れて、仲間のいる 水族館や、古代の夜空を見にプラネタリウムへ、冒険に出かける。

 この陸シーラカンスは、この一匹しか生存が確認されていない、本当に本当 に貴重な絶滅危惧種であった。 地下鉄工事で壁のかけらが、陸シーラカンス に当って怪我し、小久保洋一古代生物学博士の研究室に運ばれたことから、物 語はさらなる展開を見せる…。