身体に聞いた「身度尺」で物を作る2012/01/09 04:10

 秋岡芳夫さんの「生活と身体で測る」の話を、少し続けたい。 朝日ゼミナ ール「生活の中のデザイン―日本の知恵と伝統」の古いノートを見ている。

 『御膳』や『折敷』 (おしき・隅切(すみきり=隅切角(すみきりかく)…方形 の四隅を削り落した形)の盆)、は、移動する食卓、運ぶ食事であり、その幅は 女の人の腰の幅1尺2寸 (36センチ。馬場註…これは「かねじゃく」曲尺・矩 尺。後で鯨尺・呉服尺が出て来る)になっていて、扱いやすい。 その腰の幅1 尺2寸に、手の幅3寸(9センチ)を加えると、肩幅1尺5寸 (45センチ)になり、 正3尺(京間)の廊下で、擦れ違える。 こうした人と物や建物との関係を「関 係寸法」という。

  つぎの三つも、幅1尺2寸(曲尺・矩尺)になっている。 『手盆』。 煎茶で 使う細長い『一文字盆』。 『反物』…織る寸法、杼(ひ)を走らすのにちょうど よい幅。着尺幅は織りやすい幅、4 倍して着物の幅になる、身頃+袖×2 。(馬 場註…鯨尺(≒呉服尺)の9寸5分。鯨尺の1尺(37.5センチ)が曲尺の1尺2寸、 呉服尺の1尺(36.4センチ)が曲尺の1尺2寸5分。)

 このように身体に聞いて、物を測って、作ってきた。 これを「身度尺」と いう。

「小」の基準。 親指と人さし指を直角に広げた時の、親指の先から人さし 指の先までの長さ(直線距離) の5寸(15センチ)(「あた」)が、昔から物を測る 基本の一つだった。 尺取虫のように、二回やれば1尺。

「大」の基準。 日本人の場合、この「あた」の10倍(5尺)がほぼ平均的な 身長(頭のてっぺんからかかとまで、「杖(つえ)・丈とも書く」)と一致し、さら に両手を水平に広げた際の右手先から左手先までの距離(「尋(ひろ)」)とも一致 していた。 昔の日本人では、杖・丈=尋。 (馬場註…大仏で「丈六」1丈6 尺というのは、中国周代に用いられた「周尺」で曲尺の約4分の3、人間の身 長を周尺で8尺とし、その倍。曲尺の6尺×2 。)

大の字に寝ると5尺×5尺、それぞれ1尺ずつ余裕を持たせた、6尺×6尺= 1坪が、住空間の単位だった。 日本人の身体は、「身度尺」とするのに都合の よいプロポーションをしていた。

身体に聞いて、あみだされた寸法は、使う側の便利さを重視していたから、 その「決まり寸法」で作られた道具は、使いやすかった。 しかし、生産側の 効率を重視する現代は、こうしたデザインの心を失っていると、秋岡芳夫さん は語ったのであった。