「こいつは春から 縁起がいいわえ」2012/01/19 04:52

 12日は、遊ぶ日となった。 大・小の国立劇場を通しで見物したからだ。 友 達に呼ばれた大の昼は、第277回-平成二十四年初春歌舞伎公演『通し狂言 三 人吉三巴白浪』『奴凧廓(さとの)春風』。 小の夜は、第523回落語研究会であ った。

 国立劇場開場45周年記念の初芝居、おめでたい華やかな舞台である。 「壬 辰門出祈安寧(みずのえたつのかどんでにいのるあんねい)」という口上看板に、 「日の本に一陽来福曙の光に松の色冴えて 水も煌めく濠端に佇む国立劇場  杮(こけら)落して四十五年 天下泰平国土安穏 良き年なれと祈念して寿ぎ祝 う初芝居 歌舞伎を彩る名作者黙阿弥翁の狂言に 魁(さきがけ)競う俳優(わ ざおぎ)の華の舞台ぞ賑わしき」とある。

 『三人吉三』は、松本幸四郎の和尚、市川染五郎のお坊(坊ちゃん、英語だと Young Masterだそうだ)、中村福助のお嬢。 立春を明日に控える節分の夜の 大川端庚申塚、茣蓙を抱えた夜鷹のおとせ(市川高麗蔵)が、昨夜の客の若い男 が落した百両を返そうと探していて、振袖姿の娘に道を尋ねられ、案内しよう とすると豹変して男になって盗賊お嬢吉三、懐から金を奪い、おとせを川に落 す。 物陰から見ていた男が、金を奪おうと出て来るが、逆に男から刀(名刀・ 庚申丸)を奪って、例のセリフを吐く。 「月も朧に白魚の 篝もかすむ春の空  冷てえ風にほろ酔いの 心持よくうかうかと 浮かれ烏のただ一羽 ねぐらへ 帰る川端で 竿の雫か濡れ手で粟 思いがけなく手に入る百両 (「おん厄払い ましょう 厄落とし」の声) ほんに今夜は節分か 西の海より川の中 落ちた 夜鷹は厄落とし 豆だくさんに一文の 銭と違って金包み こいつは春から  縁起がいいわえ」

 それを見ていたお坊と、お嬢のチャンバラを和尚が仲裁、三人吉三は庚申堂 の土器(かわらけ)で血盃を酌み交わし、地面に打ち付けて砕き、義兄弟の契り を結ぶ。

 『三人吉三巴白浪』を通しで観ると、歌舞伎らしいというか、河竹黙阿弥ら しい、意外な因縁で、複雑に入り組んだ人間関係が、ようやくわかる。 おと せは、本所割下水で夜鷹宿を営み、水死体を引き上げては手厚く葬るのでそう 呼ばれる「土座衛門伝吉」(松本錦吾)の娘。 伝吉は金を落して身投げしよう としていた十三郎(大谷友右衛門)を助け、家に連れて来ていた。 十三郎は、 おとせの探していた昨夜の客、道具屋木屋の手代で名刀・庚申丸の代金百両を 落とし、申し訳に身投げするところだった。 一方、川に落ちたおとせを助け て、伝吉の家に連れて来た八百屋の久兵衛(市川寿猿)は、十三郎の親だった。  久兵衛には、一人の男子があったが、誘拐され、その子を探す帰り道に法恩寺 の門前で拾ったのが、十三郎。 和尚吉三は、伝吉の実の息子だった。 伝吉 には、ほかに双子の息子と娘がいて、夜鷹で稼げる女子は手許に残し、非道に も男子は寺の門前に捨てた。 和尚吉三と、おとせと十三郎は、兄弟(兄妹)だ った。 八百屋の久兵衛が、お嬢吉三の実父ということも後でわかる。  義兄弟の義理か、肉親の情か、物語はさらにさらに、こんぐらかるのだ。