おじいさんコウモリのチャレンジ、大冒険2022/05/06 06:41

 ドリトル先生一行は、ナルボロー島へ火山活動でできた奥深い穴、地球トンネルを見に行く。 スタビンズくんは、手紙(メッセージ)を出してみる提案をする。 ドリトル先生が平たい岩の表面にナイフで絵文字を描いて、投入れた。 計算上、出口に着くのに38分。

 そのころ、イギリスの鍾乳洞では、天井にぶら下がっているコウモリたちが、ものすごい大音響を聞いた。 熱い赤茶けた火山性の岩石に、絵があった。 人間が2人と鳥が1羽、島影、くりぬかれて穴が開いているリンゴみたいな球体、その穴に丸い点と矢印。 これはドリトル先生とスタビンズさん、オウムのポリネシアに違いない。 この島影はガラパゴス。 この穴は、希ガスの穴、地球の奥のほうにずっと続いていて、ドリトル先生たちのいるガラパゴスにつながっているということではないだろうか。 その逆向きの矢印は、返信求むということか。 そこで、コウモリのリーダーのサフィは、鋭い爪で、コウモリマークを書き込んだ。 そして、みんなで穴に投げ込んだ。

 1時間ほどして、ヒューンと音がして、カンカラカランと石が壁にぶつかった。 石は熱々だが、同じ石だった。 何も変わっていない。 若いコウモリが言った。 ひょっとしたら、向こうに届く前に、どこかで勢いを失って、戻ってきたのではないか。 中心から向うへ行く距離が少し長いと、また引力に引き戻されてしまうのだろう。 その証拠に、こっちにもどった石はそんなに勢いがなく、音も小さかった。

 しばらくして、おじいさんコウモリが言った。 鍾乳洞にはたくさん水晶がある。 水晶は硬いし、熱にも強い、石筍のように内側が空洞のものもある。 わしはこんな老人だから、何も怖いものはない、いつも思っていたことがある、人生、もうひと花咲かせることができたら、楽しいだろうなあ、ってね。 年をとってからでも冒険はできるし、何か新しいことにチャレンジしてもいいだろう。 ネバー・トゥー・レートって言うじゃないか。

 ナルボロー島では海に日が沈もうとしていた。 スタビンズくんは、目の縁を小さな黒いものが横切ったのを見た。 コウモリが、あの穴から飛び出してきたように見えた。 コウモリは一気に降下してきて、「みなさん、こんにちは。わしは、イギリス・ウェールズ地方の鍾乳洞に棲む老いぼれコウモリで、名前をヨハネスと言います。ここは確かにガラパゴスなのでしょうか」 「そうだよ!そのとおり!ようこそ、ヨハネス!」

 ヨハネスは、水晶シップでの40分ほどの冒険と、粘土のハッチを蹴破って脱出した話をした。 地球トンネルが、地球を貫通していることが証明され、ゾウガメたちの古い記憶も確かだったということになる。

ドリトル先生一行の超特急イギリス帰還2022/05/07 07:10

 ゾウガメのジヨージが、お連れしたい場所があるという。 自分の人生の終わりが近づいたカメだけが来るカルデラ、大きなすり鉢形の穴だった。 底には無数の丸い甲羅が積み重なっている、ゾウガメの墓場だった。 甲羅の多くは長い年月の風雨にさらされ、真っ白になっていた。 1メートルから大きいものは2メートル近くあった。 ジヨージは、カメの甲羅で耐熱性のシップを作らせようとしているのだ。 これが地球トンネルの熱に耐えられることは、ガラパゴスにやってきた最初のカメが証明してくれている。

 ドリトル先生とスタビンズくんは、自分の身体のサイズの甲羅を見つけ出した。 焼き鳥になるのはごめんだというポリネシアは、スタビンズくんの方に入ることにし、ヨハネスも入れる。 甲羅の穴は、破片を拾って内側からはめ殺しにする。 入り口側には、いくつかの破片を組み合わせてハッチを作った。

 スタビンズくんたちが、先に行くことにし、帰ってこなければ、次の便でドリトル先生が行くことにした。 ゾウガメたちが、引っ張ったり押したりして、甲羅シップを希ガスの穴に落とし込んだ。 すーっと、奈落の底に落ちていくのがわかった。 自由落下とともに速度がどんどん加速していった。 真っ逆さまに落ちていく感覚とともに、同時に、奇妙な、浮遊するような感じに包まれた。 それは快感、ぞくぞくするような爽快感だった。

 しばらく気を失っていたようだ。 目が覚めると、薄明かりの中で小さな目がたくさんのぞき込んでいるのがわかった。 何匹ものコウモリたちの顔だった。 スタビンズくんは、手足をのばして、ゾウガメの甲羅からはい出した。 ポリネシアも元気で、ヨハネスも大丈夫だった。 ヨハネスが無事帰ってきたことに、仲間のコウモリたちは大歓声を上げた。

 ドッカーン、大きな音がして、何かが穴の中からせり上がってきた。 穴に挟まったまま止まった、慌てて駆け寄って、ちょっとだけ頭を出しているカメの甲羅を外しにかかった。 中で黒いものがごそごそ動いている。 こんなときでもちゃんと燕尾服を着て、シルクハットをかぶっているドリトル先生だった。

 ドリトル先生は、コウモリたち、特に勇敢な地球トンネル初旅行(哺乳動物における。地球史では先にゾウガメたちがいた。)を成し遂げたヨハネスに、心からお礼を言った。 今回は、気球に入れる希ガスを見つけるところから始まって、ガラパゴスでアタワルパの〝涙〟を借りられたのも、こうして超特急でイギリスに戻って来られたのも、みんな君たちコウモリのおかげだ。 コウモリは哺乳類の中で唯一、空を制した生物だからね。 かのレオナルド・ダ・ヴィンチも君たちに最大の敬意を表して、スケッチを描いている。 ダ・ヴィンチも君たちみたいに自由に空を飛びたかったに違いない。 かわりに、私たちは地下をひとっ飛びしてきたわけだ。

 エクアドルとガラパゴスの、その後についてだ。 フロリアン大統領とロドリゲスは、なんどもガラパゴスゾウガメからアタワルパの〝涙〟をいただこうとして、なだめたり、すかしたりした。 しかし、ゾウガメたちを怒らせてしまえば、すべてが水泡に帰してしまうことも十分わかっていた。 ロドリゲスはエクアドル一のガラパゴス通になったが、フロリアン大統領はまもなく政争に巻き込まれ暗殺されてしまった。 ともかくガラパゴスは、一度も他の国に荒されることなく、エクアドル国によって守り続けられたのであった。

 ドリトル先生は、ガラパゴスの旅の唯一の記念品として、ルビイがホンモノをもとに戻した後、回収してきてくれた模造品の真珠玉を、書斎の本棚の上に貝殻や骨の標本とならべて、無造作に置いていた。 それは今も、ピンク色の妖しい光を反射している。 スタビンズくんは、胸の奥にチクリと痛みを感じていたが、あの夜のルビイの告白を誰にも話さないことに決めたのだ。 さまざまなことを勉強し、じつにいろいろなことを知った。 その結果、知らないほうがいいこともあることを知ったのだった。 大人になったのだ。

 4月19日から、19日間も書くことになった「福岡伸一の新・ドリトル先生物語『ドリトル先生 ガラパゴスを救う』、これでめでたく結末を迎えた。 昔、『リーダーズ・ダイジェスト』という雑誌があった。 一年間の新聞連載を19日間でダイジェストした出来栄えはどうだったろうか。 やっているほうは、けっこう楽しかった、福岡伸一さんに感謝である。

『歴史探偵』源義経「鵯越の逆落し」の真実2022/05/08 07:07

 4月27日放送の『歴史探偵』は「ヒーロー源義経」だった。 この番組の探偵は『鎌倉殿の13人』で比企能員役の佐藤二朗、ゲストも頼朝の弟・源範頼役の迫田孝也だった。 まず、義経が福原の平家を攻める一ノ谷の戦いだが、義経の奇策「鵯越の逆落し」が名高い。 ところが、鵯越は一ノ谷の8キロ東の峠道だという。 福原を挟み打ちにして、一ノ谷側から義経が、生田の森側から源範頼が攻めた。 しかし、生田の森側には、平家が深い堀、逆茂木、垣楯で防戦して、なかなか進めない。 『玉葉』という貴族の日記によると、鵯越から下りたのは義経でなく多田行綱だったという。 30度~40度という急坂を、当時の背丈140センチの脚の太い在来馬でゆっくり下りる実験をやっていたが、下りることは可能だった。 番組の描く義経は軍略の天才で、勝つことにこだわりがあった。 身長は151センチと小柄で、前歯が二本出ていたそうだ。

平家を滅ぼした義経は朝廷の信頼を得、強い影響力を持ったため、頼朝は警戒の念を抱く。 ピラミッド構造の鎌倉幕府、権力の分断は好ましくなく、亀裂を生じる。 義経は鎌倉に入れてもらえず、許しを懇願する「腰越状」が満福寺に残る。 頼朝は、義経の所領24ヶ所を没収、討伐の兵を出す。 義経もやむなく挙兵。 平泉へ逃げ、文治5(1189)年奥州合戦で自害、31歳。 悲劇のヒーローを慕う人は多く、いろいろな伝説も残っている。

頼朝に従順に対応していた範頼も、最後は失脚したという。

脚本家・三谷幸喜のドラマづくり2022/05/09 07:08

 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、5月1日の第17回「助命と宿命」は、クレジットの出る前に、源義経「鵯越の逆落し」の真実の話になる。 一ノ谷の戦い に大勝利をおさめた義経(菅田将暉)に梶原景時(中村獅童)が、義経の下りたのは鵯越ではなかったというと、義経は「歴史はそうやってつくられるんだ、それが歴史だ」と言う。

 後白河法皇は、義経を検非違使に任じる。 浮かれる義経は、白拍子・静御前(石橋静河(父は石橋凌、母は原田美枝子))の踊りに一目惚れ。

 三谷幸喜の脚本は、石橋山で大敗して千葉に逃げた頼朝を助け、御家人たちを束ねる役をしていた上総介広常(佐藤浩市)を4月17日の第15回「足固めの儀式」で、抹殺してしまった。 以来、恐怖政治で権力を掌握していく頼朝を強調するあたりは、背景にプーチンの姿を連想させ、響かせているように思えなくもない。 放送3日前の4月14日の木曜日、三谷幸喜さんは朝日新聞夕刊に連載している『三谷幸喜のありふれた生活』で、ネタばらしをしていた。題して「『佐藤広常』ここにあり」。 第15回「足固めの儀式」の内容は、年表風に記せば、「寿永二年閏十月、源義経、木曾義仲討伐のため、近江に到着」「同十二月。上総介広常、誅殺される」と資料に残っているだけなので、あとはほぼ創作だという。 背景となる御家人たちの反乱計画は、三谷幸喜さんのオリジナル。 作戦の内容、未遂となる経緯も、全て自分で考えたという。

 4月21日の『三谷幸喜のありふれた生活』の、見出しは「広常と泰時、不思議な関係」。 その壮絶な最期に大きなショックを受けた人も多かった、上総介広常が、当初の予定よりも遥かに愛らしいキャラに成長したのは、ほとんどが演じた佐藤浩市さんの力だという。 クランクイン前に佐藤さんから、ただの荒々しい男にはしたくないと要望があった。 そこで三谷さんは、上総介が密かに読み書きの練習をしている設定にした。 戦に明け暮れていて、満足に字が書けず、京に上った時のために、こっそりと習字の稽古をしている。 この設定が加わったことで、ドラマの登場人物としてはより厚みが増したと思う、と書いている。

 不思議なことがあった、という。 上総介広常が死んだのは、寿永二年の十二月二十日。 一方、北条義時の息子泰時(金剛と名付けられた)が生まれたのも同じ寿永二年。 何月かまでは分かっていないが、三谷さんは、上総介が殺された直後に誕生のシーンを入れることにした。 十二月二十日から年末までに生まれたなら、史実とぎりぎり合致する。

 そこから脚本家・三谷幸喜の妄想が始まる。 だとしたら泰時は上総介の生まれ変わりかもしれない。 泰時はやがて、父義時の跡を継ぎ、第三代執権として鎌倉幕府をまとめ上げる。 その泰時に、上総介の魂が宿っているというのは、なかなか面白いではないか。 あからさまではなく、におわす程度の設定で。

 3月9日の当日記「『鎌倉殿の13人』平相国、木簡、佐殿、武衛」に書いたように、上総介は頼朝を武衛(ぶえい)と呼んでいた。 それで第15回のラストシーンで、生まれたばかりの泰時が、「ブエイ、ブエイ」と泣いた。 聞きようによってはそうも聞こえる、絶妙な赤ちゃんの泣き声を、優秀な音響効果スタッフが見つけてきてくれたという。

 後に泰時は有名な「御成敗式目」を制定する。 武士はいかに生きるべきかを示した、武士による武士のための法律。 泰時は、武士たちの中には読み書きが苦手な者が多いので、「御成敗式目」は出来るだけ平易な文章にしたと、書き残しているそうだ。 三谷さんがそれを知ったのは、第15回のホンを書き終えた後だった。 上総介と泰時の、「なんという偶然。僕らは知らず知らずに、誰かに突き動かされてドラマをつくっているのかもしれない。」とある。

表情が険しくなった北条義時2022/05/10 07:09

『鎌倉殿の13人』、5月1日の第17回「助命と宿命」に戻ろう。 源頼朝(大泉洋)は、北条義時(小栗旬)に源義高(冠者殿)(市川染五郎)の処断を命ずる。 政子らは伊豆大権現に匿う工作。 鎌倉に来た武田信義(八嶋智人)と嫡男一条忠頼(前原滉)が、源氏として一緒に頼朝と戦おうと義高をそそのかす。 頼朝は、謀叛を企んだとして、一条忠頼を斬り殺し、武田信義から誓約書を取る。 信義は「『謀叛』は家人がするもの、頼朝を一度も主人と思ったことはないわ」と呟く。

 巴御前(秋元才加)が、義仲の「鎌倉殿と平家を討て」という手紙を義高に届ける。 全成が頼朝のふりをして、義高を女装させ、岩本院まで連れ出すが、義高は信濃を目指して逃げ出す。 大姫(落井実結子・みゆこ)が死ぬと頼朝に義高の助命を嘆願、頼朝も出家するならと言うが、伊豆の武士、藤内光澄(長尾卓磨)が義高の首を持って来る。 頼朝は、藤内光澄の処断を義時に命ずる。 父時政は義時に「あの方はお前を試しておられる、いや北条を」と言う。 八重の縁者、工藤祐経(坪倉由幸)が、義時に鎌倉でしかるべき役を世話してくれと頼みに来る。 ちびっ子兄弟が工藤祐経に石をぶつける。(ちびっ子兄弟は、曽我兄弟、祐成、時致だろうか。工藤祐経は、伊豆伊東の所領を奪った従弟伊東祐親を傷つけ、その子祐泰を殺した。のち源頼朝に重用されたが、富士の巻狩で祐泰の遺子曽我兄弟に殺された。)

 義時は藤内光澄を斬首にし、河原にさらす。 工藤祐経に「私にはここ(鎌倉)しかない」と言う。 姉の政子には「断じて許しませんと言ったではないですか。我らはもうかつての我らではないのです」と言う。 小四郎北条義時は、鎌倉で変わっていく。 息子の金剛(後の泰時)を抱いて、「父を許してくれ」と。 それまでの義時は、ときどき照れたような表情を見せていたが、この回からは険しい表情になった。 恐怖政治で権力を掌握していく頼朝の官房長官としての覚悟を決めたかのように。

 『鎌倉殿の13人』の初めの方の義時は、頼朝を担いで平家と一戦交えようとする兄の宗時と違い、やむを得ず兄に引っ張られていくような性格に描かれていた。 2月20日の第7回「敵か、あるいは」で、坂東の巨頭、上総広常(佐藤浩市)を味方につけようと説得に行った時も、義時は、上総広常に頼朝の下、坂東武者の勢力を結集して平家に対抗しようと説く一方で、ポロリと自分は次男坊で「木簡」でも数えているほうが性に合っている、と漏らした。