隅田川馬石の「双蝶々~権九郎殺し~」後半 ― 2024/12/15 08:05
頃合いをみて、長吉は奥のお内所へ。 ミシミシ! (おかみさんが)誰だい、そこに来たのは? 長吉でございます、急に差し込みまして、お薬を頂きたい。 旦那はよく寝ている、中へ入りなさい、奥の洋箪笥の抽斗の一番上に薬が入っている。 これが鍵だから、二番目の抽斗と一緒に持って来ておくれ。 こちらでございます。 手をお出し、薬はそれだけあればいいだろう。 台所にお湯があるから、ぬるま湯にして…、大事に。 ありがとうございます、お休みなさい。 まんまと、五十両を手に入れた。
五十両、番頭に渡すのは、口惜しい。 番頭をぶっ殺して、奥州路にでも逃げるか。 それを厠へ行く、定吉に聞かれた。 言ってやらあ。 お前に、懸け守りを買ってやろう、とびきり上等のやつを。 寸法を測るから、向うを向け(と、紐を手に取り)。 何を、するんだ! 定吉の首を絞める。 ウーーン!
ボァーーン、弁天山の鐘が鳴った。 長吉は、山崎屋を出ると……、(馬石は座布団と羽織を片付けて)浅草の西河原田圃、六郷様の塀外へ。 番頭、番頭……。 遠く吉原のさんざめきや歌が(お囃子が入る)、風の間に間に聞こえる。 「黒板塀に見越しの松、エヘン、女房今戻ったぞ。 早うお帰り、待つ身は辛い。」 長吉は、もう見えるか。 バタバタバタバタ! 何をするんだ、当たりやがって。 そういうお前は、長吉ではないか。 番頭さん。 首尾は、どうだった? ごめんなさい、上手の手から水が漏れるで、腹が痛くなり…。 居ても立っても居られない。
(芝居がかりになって) これから少し吾妻の……じゃら、じゃら、じゃら、じゃら(と踊る)。 早う、その金、渡してくれ。 この金、お前さんには渡せません。 お金は、お店にございます。 長、長、長、長、吉、出さぬというのか。 本心で。 本性で言うたのか、とんだ師直もどきでねえか。 このわいを一杯はめおったな、どこぞに走る気だな。 こいつめ、この権九郎が、腕づくでも取ってやる。
(取っ組み合いになる)ババーーッ! もうちょっとで、溝(どぶ)に落ちるところだった。 引っ張って、何をする、離せ、離せ! (匕首を構え)ダダーーッ! えらいところを斬りおったな。 (匕首で刺す。) おのれ、斬りおったな。 (お囃子の唄が入り)人殺し! 人殺しじゃ! 人殺しッ! ヤーーッ! とんだ手間を取らせやがって。 少しも早く、奥州路へ。
(隅田川馬石は、芝居がかりのこの立ち回りを、中腰から激しく、数分間に渡って、好演。しゃべるよりも演じ、踊るというようなわけで、うまく書けなかった。拍手、拍手!こんな落語は、初めて観た。)
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