「律義(律儀)、正直、親切(深切)」2013/03/13 06:56

 桑原三郎先生の随想集『下湧別村(しもゆうべつむら)』(慶應義塾大学出版 会・1999(平成11)年)に講演「教え子の恩と、吉田小五郎先生との一期一会」 がある。 その前年の9月27日に桑原三郎先生が幼稚舎(六カ年担任持ち上 がり制が原則)で担任した第一回から第八回までの教え子たちが開いた会での 講演である。 その第一回生が、志木高校から慶應義塾に入った私と、大学で 同期となる。 桑原三郎先生は、昭和23(1948)年3月に慶應義塾大学文学 部の心理学科を卒業し、心理学の主任だった横山松三郎教授の世話で、幼稚舎 に就職する。 前年12月、幼稚舎の餅つきの日に出向いて、舎長の吉田小五 郎先生にお目にかかると、「どうか一生居て下さい。子供は可愛いですよ。」と 言われたという。 昭和23年4月、1年O組の担任教師となる。 21歳3ヶ 月、教え子との年齢差は15歳だった。 初めての顔合わせの日、幼稚舎には 教壇がないので、子供たちに椅子を持たせて、自分のまわりに腰かけさせた。  すると、子供は可愛いもので、一人が直ぐに先生の膝の上にちょこんと坐った という。 山田拓郎君だ。

 桑原先生は振り返っている。 「私は二十一歳で幼稚舎の先生となり、忽ち 吉田先生の生き方に感動しました。先生の真似をして、頭を毬栗(いがぐり) にしたこともありましたが、吉田先生に嫌われないように生きたいと思ったの が、私の人生を決めたように思います。/先生は卑しいことが大嫌いです。で すから私も卑しいことは出来ない。先生の生き方は、人に威張らず、律義、正 直、親切でした。律義、正直、親切は、福澤諭吉先生が御長男の一太郎さんに 教えた文言(もんごん)であり、福澤先生の生き方でもあります。吉田先生の 生き方も同じなのですね。私も私なりに、為すべきことはきちっとするように 努め、してはいけないことはしないように努め、正直、親切に生きたいと思っ て来ましたし、人に威張ることもしませんでした。これは福澤流の生き方です。 /人の偉さは肩書きではありません。為すべき事をきちんとし為すべからざる ことはしない。そして嘘をつかず、自分勝手をしない事です。逆に、人の悪さ は、律義の反対の怠けること、してはいけないことをすること、正直の反対の 嘘つき、親切の反対の自分勝手、欲張りでしょう。/新聞を見ると、毎日のよ うに肩書きのある人がお金ほしさに変なことをしていますけれど、そういう人 は律義正直親切の逆方向を生きる人でしょう。律義正直親切の人は尊敬できま すが、その逆方向を生きる人とは疎遠でいたい次第です。」(引用終り)

 この「律義、正直、親切」は、明治13年8月3日、45歳の福沢が、アメリ カ留学3年前16歳の長男一太郎に書いて与えた文書にある。(桑原三郎著『愛 の一字』118頁) その冒頭は「活発磊落、人ニ交ルノミナラズ、進(すすん) テ人ニ近接シテ、殆(ほとん)ド自他の差別ナキガ如キ其際ニ、一片ノ律儀正 直深切ノ本心ヲ失ハザル事。/律儀正直深切ノ働(はたらき)ハ、明処ニ於テ スルヨリモ暗処ニ於テスルヲ貴トス。陰徳ハ陽徳ヨリモ効能大ナリ。」

コメント

_ 濱田洪一 ― 2013/03/13 10:41

私の小学校、森村学園の校訓は「正直、親切、勤勉」でした。

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