ヤマザキマリさん観察の十八代目中村勘三郎2019/04/12 07:04

 3月25日の「等々力短信」第1117号に書いたヤマザキマリさんの『男子観 察録』(幻冬舎文庫)で観察された男子の一人に、十八代目中村勘三郎がいる。  「地球上の全てに興奮する、宇宙レベルの粋人」という最上級の見立てである。  十八代目夫妻は、世界で訪れていない場所はないのではないかというくらい、 ありとあらゆる国をプライベートで旅行していて、その頃ポルトガルのリスボ ンで暮していたマリさんと出会った。 その時、話題がコロンビアの作家ガル シア=マルケスの『百年の孤独』に及んだ。 十八代目(勘三郎さん、とマリ さんは書く)は、旅をしながら読み進めているという『百年の孤独』の面白さ と興奮を、ありとあらゆる表情筋や仕草を駆使して放出させ、マリさんは、自 分以外で初めて体裁を気にせず胸中の高揚を全身全霊で表現する「日本人」と 出会って大変嬉しくなった。 二人は深夜のレストランで唾を飛ばし合いなが ら「マルケス万歳」と絶賛し合い、意気投合した。

 十八代目は、普通に喋っていてもその顔つきはバラエティーに富んでいて、 下手をしたらイタリア人の表情なんかよりずっと多様で味わい深い。 そのく るくる変わる表情は、この人の内面に潜んでいるインテリジェンスや並々なら ぬ繊細さを意味するものでもあった、という。

 「勘三郎さんは、人であろうと自然であろうと、とにかく常に地球上に存在 する様々なものから触発されることを求めている人だった。だから沢山の人と 積極的に会い、地球上を旅し、様々な書物を読む。地球という惑星上で起こり 得る全ての現象に対して満遍なく興味を示す。通常、それだけ沢山の情報を吸 収すると、間違いなく消化不良を起こして大変なことになってしまうだろう。 だからものを創る多くの人は、ちょっとずつ新しいものをつまんでは、その味 をゆっくりと確かめるように生きているのだと思う。だが勘三郎さんは巨大発 電機なのでそうはいかない。いっぺんに沢山の刺激を取り込んでは、それらを 猛烈なエネルギーに変換して、常時発電し続けている。そのメンテナンスたる や、きっと並大抵の体力や精神力では務まらないだろう。」

 ヤマザキマリさんは、十八代目のことを、溢れてくる感情を不必要に抑えず、 出し惜しみもせず、体裁構わず純粋に外部へ放出させる、そのかっこよさには、 ただもう感動するしかない、と言う。