三遊亭わん丈の「近江八景」2019/04/28 08:08

 すっかり暖かくなった23日は、年度初め、第610回の落語研究会だった。  いつも麹町の鶴屋八幡に寄るのだが、この日カルロス・ゴーン被告が再び保釈 されるかどうかが問題で、このビルに事務所のある弘中恂一郎弁護士のコメン トを求める報道陣がカメラを据えて待っていた。 横をすり抜けて、柏餅を買 う、ここはこし餡だけだ。

「近江八景」     三遊亭 わん丈

「近日息子」     桂 三木助

「蛇含草」      瀧川 鯉昇

       仲入

「三方一両損」    古今亭 文菊

「崇徳院」      入船亭 扇遊

 三遊亭わん丈、黒羽織の赤い紐が目立つ。 師匠円丈の家の稽古部屋に、大 師匠円生の写真があり、落語研究会初出演の報告をしたら、「がんばるでげすよ」 と。 師匠にも落語研究会に出ますと言うと、「どこの大学の?」。 マクラま で用意してくれて、有難い。

 「近江八景」という噺、寄席でかかることは、ほとんどない、落語研究会で も20年ほど前に鳳楽師匠がやった(25年前の1994(平成6)年4月・第310 回)だけだそうで、滋賀県出身の落語家としては、私が初めて。 なぜ、やら ないかというと、ものすごく面白くない。 古典も初めは新作で、その当時の 人なら思い浮ぶことが、やがてわからなくなる。 「近江八景」も、そばで育 ったのに、存じ上げない。 まずは研究、説明をすると、まあまあ面白くない、 位にはなる。

 噺家は、扇子と手拭いしか使えない。 たま平(林家正蔵の息子)は、血縁 も使っているけれど。 扇子の大きさに規定はないので、寄席では大きな扇子 に説明を書いてやっているが、落語研究会では駄目。 プログラムに説明があ るので、読みながら聴いて下さい。 滋賀県は、八つある海無し県の一つで、 北は福井、西は京都、東は暑いだけの岐阜、南は三重に接している。 福井の 合宿で運転免許を取ったんだけれど、路上運転の試験が「安全運転で東尋坊ま で」、落っこちそう。 滋賀と京都とでは、ガソリン代が違う、京都は今でも天 皇が帰るかと街中に広く御所を残している、AEONか何かにすればいいのに。  滋賀県は思われているように、琵琶湖の中にあるのではなくて、琵琶湖は滋賀 県の7分の1しかない。

 旧近江八景、大津市に七つ、対岸の草津市に一つある。 粟津の青嵐、松の 木が五百本ある、私は粟津中学出身で、石山の秋月の、石山高校出身。 瀬田 の夕照、勢多の唐橋は瀬田の長橋とも言われた、父は瀬田高校出身。 唐崎の 夜雨。 三井(みい)寺、三井の晩鐘。 堅田の落雁、浮御堂。 七つ目が、 比良の暮雪。 八つ目が矢橋(やばせ)の帰帆。 地元では一つ、忘れている という、膳所(ぜぜ)、膳所城があって、魚料理を京都に運んだ。 私は膳所小 出身。 実は、「近江八景」は膳所城から見た景色だ。

 <もののふの矢橋の船は速けれど急がば回れ瀬田の長橋>。 比叡下ろしで、 船が難破する。 京都へは、船より、歩いて長橋を渡った方が早い。 山手線 は滋賀県のおかげ。 南の渋谷や新宿は膳所、三井寺は紅葉で巣鴨、唐崎は日 暮里、堅田は上野、唐崎と堅田の間には雄琴、鶯谷という男の歓楽地がある。  矢橋は府中、中央線は人身事故が多いから、<もののふの中央線は速けれど急 がば回れメトロ山手(やまのて)>。

 持ち時間は、あと7分。 浅草、吉原。 兄貴、占いに行こうかと思うんだ。  来年三月、年が明けたら、一緒になろうという女がいるんだが、女の本心を見 立ててもらいたい。 裏で、その女に言い交した男がいると聞いたぞ。 俺だ ろ? 馬道に用があって行ったら、すれ違った人が、紅梅さんのいい人だって いうんだ。 確か、お前の女は? 紅梅。 その男、目は舘ひろし、鼻が高倉 健、口は舘ひろし、いい男だったが、お前の顏は、上方のおばさん達が走って る。 何だ? 悪寒が走る。

 占い師。 そなたは何歳だ? 実年齢か、肌年齢? そんなこと、聞くか。  女のことだろう、玄人の女だな。 当った。 目はヒロコ、鼻がミチコ、口は ジュンコ、コシノ三姉妹だな。 うまくいくかどうか、女の本心を見立てても らいたい。 水火既済(すいかきせい)と出ている。 それは? 裏に、いい 男がいる。 固い約束を交わしているんだぞ。 お前さんは、しばしの踏み台 だ、駄目だ、あきらめろ、この不細工。

 あんたも八卦見なら、八景も見られるだろう、この手紙を読んでよ。 「恋 しき君の面影を、しばしがほどは見いもせで、文の矢橋の通い路や、心かたた の雁ならで、われから先に夜の雨、濡れて乾かぬ比良の雪、瀬田の夕べと打ち 解けて、かたき心は石山の、月も隠るる恋の闇、会わずに暮らすわが思い、不 憫と察しあるならば、また来る春に近江路や、八つの景色にたわむれて、書き 送りまいらせ候 かしく」

 文によって判断すると、女が顔に「比良の暮雪」ほどお白粉をつけているの を、お前は一目「三井寺」より、わがものにせんとこころみて、心は「矢橋」 にはやるゆえ、「唐崎の夜雨」に濡れかかっても、先の女は「石山の秋の月」、 もう飽きた、心はふらふら「浮御堂」、待つのはおよし。

 (男が立ち去ろうとすると、易者が)見料だ、銭を置いて行きなさい。 何、 八卦(八景)にはゼゼ(膳所)はない。