立川生志の「紺屋高尾」中2019/07/04 07:05

 あっという間に、三年の月日が経つ。 休みが欲しい。 月々預けたお金、 いくらになりましたか。 十八両二分、よく貯めた。 あと一両二分貯めろ、 二十両にして、お袋に親孝行をしたらどうだ、喜ぶぞ、そうしたらお前を養子 に取って、あとを継がせたい。 十五両下さい。 何を買うんだ。 知ってい るでしょう。 (口の中で)タカオ、タカオ、買う。 素人には無理だ、ジュ ウシマツかなんかで我慢できないか。 そうだった、三浦屋の高尾太夫か、格 式とかいろいろある、どうしようかな。 八百屋の奥の先生、薮井竹庵、病気の患者がいても呼ばないけれど、呼んで来い。 医術の評判はよくないけれど、 女郎買いは免許皆伝だから。

 先生は、医術の評判はよくないけれど、女郎買いは免許皆伝だそうで。 陰 で言われているのは知っていたが…。 職人は、本当のことしか言わない。 生 きる者は生きる、死ぬ者は死ぬ。 紺屋の職人ではなく、流山あたりのお大尽 の若旦那と、お抱えの医者ということにして…。 久ちゃんこっちだ、支度を してくれると、若旦那然とはなったが、真っ青な手をしている。 手は袂に入 れて、何を言われても「あい、あい」と重ね言葉で。 僕、若旦那、私のこと は、「おい、薮井」と呼ぶように。

 神田お玉ヶ池の紺屋六兵衛の店を出て、江戸町二丁目の三浦屋の高尾太夫の ところへ。 いつも大名ばかり相手にしているが、この日はたまたま空いてい た。 若旦那はんのお相手、しとうござんす。 京の言葉、色っぽい、上七軒 に行ったことがあるが、そうどすえ、とくる。 国を訊いたら、横須賀どす。  花魁言葉、里言葉は、山の手の古い奥様に残っていて、息子は東大一発なんざ んす、産んだ時はなんざんす。 太夫職は、八段階の一番上の位。 歌舞音曲、 和歌俳諧、華道茶道に通じ、チンチロリンの胴元も取れる。

 上草履がパターーン、パターーン、久蔵の胸の高まりは張り裂けんばかり。  朱羅宇の長煙管で、ぬし、煙草を。 手を袂に入れているから、そのまま袖で 受ける。 そんな久蔵を、高尾は見事にもてなして、一人前の男にしてくれた。