清水の次郎長と咸臨丸〔昔、書いた福沢90〕2019/07/31 06:42

               清水の次郎長と咸臨丸

        <等々力短信 第877号 2000(平成12).5.15.>

 ひさしぶりに題名に「経済学」が入った本を読んだ。 『次郎長の経済学』 (東洋経済新報社)、長銀の調査マンで専務までやり、『路地裏の経済学』 『柔構造の日本経済』などの著書で知られる竹内宏さんと、その清水市岡小学 校から東大経済学部までの同級生で、清水の次郎長の菩提寺・梅蔭寺が生家の 田口英爾(えいじ)さんの共著である。 14日に福沢諭吉協会の一日史跡見 学会で、清水市興津の清見寺を訪れることになっていたので、図書館へ次郎長 関係の本を探しに行って、偶然見つけた。

 咸臨丸は徳川幕府の軍艦だから、幕末の戦争にも登場する。 慶応4年8 月、榎本武揚が軍艦8隻を率いて、北海道の新天地を目指した時も、その中の 一隻だった。 箱館への途中、艦隊は大暴風雨に遭い、ちりぢりになる。 咸 臨丸は、房総沖で難破し、下田港に漂着する。 その後、修繕のため清水港に 回航されたが、それが官軍の知るところとなり、明治元年9月18日、新政府 の軍艦、富士、武蔵、飛龍の三艦の集中砲撃を浴びた。 咸臨丸には、旧幕臣 二百人以上が乗っていたが、大半は海に飛び込んで、三保の海岸に泳ぎ着く。  最後まで船に残っていた7人の幕臣は、乗り込んできた官兵に斬り殺され、 海へ投げ捨てられてしまう。 官軍は咸臨丸を曳航して品川に引き揚げた。

  清水湾内に浮かんでいる7人の幕臣の死体は、賊軍のものだから、それに加 担すれば打ち首というので、誰も手をつけない。 その死体を引き揚げ、手厚 く葬ったのが、清水の次郎長だった。 駿府藩庁は、次郎長に出頭を命じ、そ の行動を糾問したが、次郎長は「死ねば仏だ、仏に官軍も賊軍もあるものか」 と言い放ったという。

 この咸臨丸事件から20年後の明治20年、清見寺で旧幕臣たちによる盛大 な慰霊祭が行なわれ、榎本武揚が「食人之食者死人之事(人の食を食む者は人 の事に死す)」と揮毫した立派な石碑が建てられた。 福沢諭吉は明治23年 11月、清見寺でこの碑を見て、『史記』にある「二君には仕えない」という この言葉に感ずるところがあり、すぐに榎本武揚と勝海舟に宛てた『痩我慢の 説』を書いたと伝えられている。

 静岡・清水は、天領に寺領や旗本領がやたらに入り組んだ土地で、治世は弱 いのに、産業が盛んで貨幣経済は発達し、それが賭博産業の基盤だった。 代 官らは手が回らず、土地の博徒に十手を与え、目明かしにする。 警察行政を アウトソーシングしたわけで、現在のパチンコ業界への警察OB天下りに似て いると、竹内さんはいう。

小人閑居日記 2019年7月 INDEX2019/07/31 07:09

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