「歴史の幕間劇」を終らせ、協調による国際秩序へ2021/08/19 06:50

 小和田恒さんは、米中対立など混沌とした世界情勢を「歴史の幕間劇」と見る。 ウェストファリア会議以降、欧州が中心だった「国際社会」は、2度の大戦を経て、大きく変わり、グローバル化した。 植民地から独立した新興国がメンバーの多くを占め、温暖化対策やコロナ禍のように国境を越えて人間の安全に関わる問題への取り組みが必要な「地球社会」へ変貌した。 国際社会が協調によって秩序を築く流れはとどまることはないと思われる。 しかし、そこにあった冷戦を、小和田さんはシェークスピアの芝居の幕間劇のように考える。 確かに米ソが戦争をすれば互いに滅ぶという恐怖から均衡が保たれるという、19世紀と同様の「力の均衡」の世界が一時的に出現した。 しかしその間も歴史劇の主題であるグローバル化は着々と進んでいたのだ。

 冷戦終結とはグローバル化にソ連の社会体制が対応できなかった「敗北」だった。 幕間劇が終れば、グローバル化という主題が表舞台に出て、新興国も加わる「第2のウェストファリア体制」と言うべき協調の時代へ向かうはずだった。 それが誤解され、米国を中心とする資本主義の「勝利」という考え方が生まれた。

 野放しの自由放任主義に統治原理としての正当性が与えられ、協調で国際秩序を築く努力は滞ってしまった。 格差拡大への不満から社会の分断が進み、米国では自国第一のトランプ現象が、英国でも欧州連合(EU)からの離脱が起きた。 他のEU諸国でも移民や難民の受け入れに国民が反発するナショナリズムが強まった。 ソ連の後身ロシアではプーチン長期政権でのクリミア併合に見られるような領土回復主義、中国では前世紀までの植民地支配の屈辱を晴らす復讐主義と、国際秩序を軽視する国民感情が生まれた。 ウェストファリア体制前の欧州さながらに、各国が目先の偏狭な利益の追求に走っている。

 国際司法裁判所(ICJ)にできることは何か。 グローバル化した国際社会で、ICJはアフリカ、中南米、最近では東南アジアでの領土紛争解決などに行動を広げた。 国際法で平和を実現する組織として、もっともっと役立てる。 ただ、裁判権がすべての国際紛争に及ばず、原則として当事国同士の同意が必要なことが最大の問題だ。 国際法で裁けばすべて解決するのかという問題もある。 現実の国際関係をどう改善するかの問題は残り、知恵を絞るのが外交だ。

 核保有国の間で紛争になれば取り返しがつかない。 協調によって国際秩序を築く歴史の流れに戻るには、この幕間劇を一日も早く終わらせなければならない。 特定の国を封じ込める形でなく、世界観を共有して力を糾合するために、外交の力は大きいはずである。

 民主政治の基本は国民の意思尊重だが、国民が事実を掌握し判断する能力を持つことが前提だ。 統治を託された為政者が目先の利益を国益として国際社会で主張することも慎むべきだ。 普遍的価値にどう国益を反映させ国民を納得させるか。 そうした為政者と国民の関係を突き詰めれば、教育の大切さがおわかりだろう、と小和田恒さんは言う。 権威主義国家では指導者にとって最大の価値は統治体制の維持にあり、ナショナリズムが時折あおられる。 その意味でも教育は重要だ。

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