柳家小里んの「五人廻し」後半2023/07/02 07:17

 おい、小使い! そこでは談判が出来ぬ、前へ進め。 貴様、当家の何役だ? 二階を廻しております。 何歳にあいなる? 四十五になります。 四十五になる男子が、女郎屋の夜具蒲団を運搬して、何が面白い。 専従の奴隷ではないか。 人跡絶ちて音無し、隣は何だ、もう一つの枕は何人がする枕か。 請取証、娼妓揚げ代金一円也、娼妓が来んのでは、有名無実、一円を返せ。 もうしばらくのご辛抱を。 妻は長く患っておる。 妻の勧めで相談の上、娼妓の身を欲っせんがため、登楼しているのだよ。 ヨヨヨと、泣く。

 手を叩き、若エー衆さん、由良さんこちら、手の鳴る方へ。 アマっ子がいなくなった。 こう見えたって、オラは江戸育ちだ。 帰エるから、一円返せ。

 エーーッ、花魁へ。 廊下を通行する御仁、若エ衆さんでゲショ。 入り給え、清め給え。 隣家の野暮人などは知らんが、拙などはご婦人は飽きました。 兼好法師など、傾城に罪(とが)なし、通う客人に罪あり、寒からぬほどに見ておけ峰の雪、と申された。 罪滅ぼしで、働いてもらいたい。 尊君は、顔に品があって、相がいい。 最早、引け過ぎに当たりて、閨中、隣に姫が侍ったほうがよいか、侍らぬほうがよいか、尊君に伺いたい。 早い話がです、一円返してもらいたい。 もはや鶏鳴、尊君と遊びましょう。 帯を解け、背中をこちらに、お向けなさい。 真っ赤に焼けた火箸を、背中に。

 花魁、こちらにいらっしゃいますか。 私、一人じゃないんだよ。 こちら、お大尽。 オラ、別に喜瀬川を引き留めているんじゃない。 オラのもとを離れるのがイヤだと廻らないんだ。 この人のそばを離れたくない、喜助、と、お大尽の膝にすがって泣く。 玉代返せ、というのは田舎者だ。 四人か、一円が五円あるから、一円はお前の祝儀だ。 お大尽、ありがとうございます。 私もおねだりしたい、私にも一円頂戴。 年が明けたらヒーーフになる、一円でええのか。 これ、お前にやる、好きに使っていい。 じゃあ、一円あげるから、みんなと一緒に帰ってちょうだい。