桃月庵白酒の「お化け長屋」後半2023/07/05 06:37

 フォ、フォ、マッピラ、ゴメンネー、フォ、フォ、返事をしろ、前の家は、どうなってんだ。 大家が遠方、突き当りの「古狸」の杢兵衛さんがこの長屋の草分け、差配している。

 おい、狸いるか。 いたな狸、前の家は、どうなってんだ。 タダ、本当か、ちょっと待て、おかしいぞ。 それなりの訳が。 出るんだろ、幽霊。 実は、そうなんで。 わかる、わかる、いいじゃないか、出たって。 本当は話したくないけれど、経緯を…。 経緯はいいんだよ。 お願いだから、聞いて下さい。 泣くことはないじゃないか。 本当は話したくないって、どっちなんだ、聞いてくれって言った、飯食ってないのか、声を出せ。

 お上がり下さい。 上がってやるよ。 何だ、何だ? 今を去ること、三年前、二十七、八の後家さんが住んでいた。 二十七、八って、どっちなんだ。 二十七か、二十八と言え。 後家さん、亭主は何で死んだ? エーーッ、老衰で。 花嵐時分って、何月何日だ。 胸元っていうとオッパイだな、いきなりオッパイって、俺とやり方が違うな。 呑んでいた匕首で乳の下をブスリと一刺し、これが致命傷。 それは、お前がやったろ、その場にいなければわからないことばかりだ、交番へ行こう。 何だ、泣いてんのか。 いちいち泣くな、かわいいな。 翌朝、駆けつけると、あたり一面血の海。 三日で越して行くのに、三日、四日は何もないとは、どういうことだ。 雨のしとしと降る晩など…。 普通に話せ、三日も経たずに、もう四日も経っている。 病人か、お前は、普通に話せ。 その辺のつまらない落語会じゃないんだから。 よかった、名前出さないで。

 遠寺の鐘がボーン、仏壇の鉦がひとりでチーンと鳴り…。 間を取れ、大事なところだから。 障子に女の髪の毛がサラサラ、障子が音もなくスーッと開く。 サラサラやスーッと、音してんじゃないか。 現れたのは、おかみさんの幽霊、ケタケタケタと笑う。 思い出し笑いだな。 お前、探してんのこれじゃないか(と、雑巾を出す)。 越して来るから、掃除して、待ってろ。

 そう言って、ニヤニヤしながら、帰って行った。 矛盾点を突いてくるんだ。 店賃、どうする。 二人で出すか。

 三日目。 驚かして、追い出そう。 ちょうどいい、三日目だ。 長屋中に声をかけよう。 与太郎と婆さんだけだ。 あたい、幽霊、恐い。 与太郎、待て、お前鉦探してくれ。 縁側で、障子をサラサラ鳴らす。 婆さん、年は違うけれど、おかみさんだ。 遠寺の鐘、銅鑼があった。 もうすぐ、奴っこ、帰って来る。

 今日で三日目だ。 ボーーーン! 違うけど、あったんか。 チーン、これは、そのままだ。 サラサラ、サラサラと、与太郎が、皿を投げまくる。 婆さんは、縁側の障子へ。 開かないぞ! 開けてくれ、開けてくれーッ! 婆さんの幽霊だ…、アーーッ、恐い! 奴っこ、逃げて行ったぞ。 婆さん、髪の毛どうした? 岩海苔をつけた。