志ん輔の「唐茄子屋政談」2007/07/24 07:46

 仲入後は志ん輔の「唐茄子屋政談」だけだ。 政談、つまり裁判話になると ころまでたっぷりやるのは、予想できた。 志ん輔、少し痩せたように見える。  いきなり噺に入り、親戚の前で若旦那の徳が啖呵を切って、勘当になるところ をかなり丁寧にやった。 お天道様はついて回ったが、米のメシはついて来ず、 徳はウロウロウロウロすることになる。 吾妻橋で身投げをしようとして、本 所達磨横丁の叔父さんに助けられ、目を覚ましました、何でもします。 翌朝、 天秤棒をかついで唐茄子を売りに出ることになる。 その仕度のところで、志 ん輔の細かい描写が光る。 足袋が白と黒だが、そのままでいい。 暑いので、 大山詣りの笠の中に、裏のイチイの葉っぱを二、三枚。 腹掛けの紐を締める のに、どんぶりを持ち上げといて、紐を縛ってから、下ろすんだ、と。

 達磨横丁を出て、吾妻橋を渡り、田原町まで来たところで、小石につまずい て荷を放り出す。 親切な人が、話を聞いて、顔見知りに売ってくれる。 や だよ、ガチャガチャじゃないと断わった半公は、三年前に親方をしくじって居 候していた時、唐茄子の安倍川を四十八切れ食った話を持ち出される。 いざ 買うとなると、デケエのを選る。

 お蔭であらかた売れて、あと二つ、田んぼにかかる。 売り声の練習をする、 「唐茄子屋でござい」。 吉原田んぼなのに気づく。 初めて吉原に上がった時、 あの妓が真っ赤な顔をした、あれも手練(てれん)だったのか。 朝、障子を 開けたら、雪だったことがあった。 ふたりで三階から真っ白な吉原を見てい た。 あれから帰らなくなったんだ。 流そうか、ご馳走するよ何がいい、鍋 が好き、寄せ鍋にしよう。 舌の先で白滝が結ばれた。 ここで歌になる。 「伸 び上がり見れども見えぬ後ろ影、じれったいと思わず噛み切る草文字(?)」。  この吉原田んぼでの回想シーンに、志ん輔の抒情が輝いた。