江國香織さんの《小さな童話》大賞 ― 2012/01/29 04:05
歌代 朔さんの『シーラカンスとぼくらの冒険』を読むきっかけになった、お 父さんの年賀状の添え書きで、思い出したことがある。 昭和62(1987)年暮、 江國香織さん(当時23歳)が「草之丞の話」で『はないちもんめ』の《小さな童 話》大賞を受賞した時、父上の江國滋さんが私に読んでもらいたいと、作品の 載った大賞発表の切り抜きを送って下さった。 手紙の末尾に「親ばか、お笑 い下さるべく。」とあった。 江國滋さんには「等々力短信」を読んで頂いてい て、手紙のやりとりがあった。 私は一読して感心、こんな手書きの返事を出 している。 江國香織さんのその後については、ご承知の通りだ。 このご縁から類推し て、歌代 朔さんも、同じように大成されるに違いないと、私は思っている。
昭和62年12月27日
江國 滋 様
お嬢様の《小さな童話》大賞、ご受賞、祝着至極に存じます。 その道のこ とは皆目わかりませんが、童話の芥川賞のような賞なのでありましょう。 拝読、奇想天外な創作力と、ストーリー・テラーとしてのきらめくような才 能に舌を巻きました。 かねて私は、落語の世界で、泡のように消えてしまう 新作でなく、やがては古典となって生き残って行くだけの力を持った新作を待 望しておりました。 その期待に十分応えることのできる蕾が、今ここに開き 始めています。 やがて、「江國香織作」の落語を小三治師匠が身をよじって、 あの口跡で『おいたわしゅうございます』と演じるのを、聴くことができるの ではないかと、思っております。
芳紀まさに二十三歳。 ご心配のことであります。 賢きあたりでは、三井、 服部、澁澤、そして小和田雅子嬢に加えて、江國香織嬢の名をリスト・アップ したに違いありません。 それと申しますのも、御母君様が、かつて新聞の成 人の日の懸賞論文に入賞したり、「ねんねのねむの木」なる童謡をお作りになっ た故事があるからです。(童話と童謡は親戚みたいなものです。) かの一族は、 カードマジックの観客としては一流だという利点はありますものの、少々堅苦 しい。 お父様も飲んだくれ(←五字抹消(赤線で))飲み過ごしなどなさっている 訳にはいかなくなります。 私なども、手紙を差し上げられなくなります。 こ の御話は、ぜひともお断りになりますように…。
お手紙を拝受して、福沢先生がそうであったように、江國滋先生もまた、人 の親であったかと、とても温かいものを感じました。 失礼ながら、思うたび に、それは唇の両脇をゆるめる作用をするのです。
クリスマス・イブに、世田谷は富士の見える方角から、かすかに鈴の音のよ うなものが、聞こえてきました。 あれはサンタクロースのスレイベルだった のか、はたまた二八そば屋の屋台に下げたものの鳴る音だったのか、それとも 私の空耳だったのでしょうか…。
皆様、お揃いでよい年をお迎えになりますよう。
馬場紘二
最近のコメント